研究課題/領域番号 |
24530776
|
研究機関 | 静岡県立大学短期大学部 |
研究代表者 |
鈴木 俊文 静岡県立大学短期大学部, その他部局等, 講師 (60566066)
|
研究分担者 |
立花 明彦 静岡県立大学短期大学部, その他部局等, 准教授 (20342082)
濱口 晋 静岡県立大学短期大学部, その他部局等, 講師 (90342302)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 災害介護 / 災害過程 / 介護職員 / 災害研修 / 災害過程アセスメント |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、自然災害で被災した高齢者・障害者等の介護施設に従事する職員の業務・支援の実態を分析し、被災した介護施設の生活支援(介護)に必要となる知識や技術・行動力を習得するための教材・研修プログラムの開発・作成である。具体的には、①発災から平常時に至るまでの被害状況と、提供された介護内容や職員体制、被災時における家族や地域との関わりや役割を明らかにし、②これらの実態に基づく教材の作成、③介護福祉専門職者を対象にした研修への導入・評価の3段階を設計し進めている。 初年度は、新潟県中越地震・中越沖地震で被災した介護施設の災害過程の調査・分析から、介護施設が巻き込まれる主要な変化を明らかにした。2年目は、初年度の調査分析の結果を基に、研修で活用する「事例教材」と「災害過程アセスメントシート」を組み合わせた研修教材を開発した。当該年度である3年目は、開発した研修教材を用いた研修プログラムを試作し、三重、静岡の2会場でモデル研修を実施した。また、ここで得られた研修効果をアンケート結果から分析し、日本介護福祉教育学会で発表した。 現時点で明らかになった研修効果は、①事例教材を活用した研修は、疑似的な体験から被害状況を想定しやすく、災害過程に生じる主要な変化を自施設の実情(備え)に応じたかたちでアセスメントしやすいこと。②ここでのアセスメントは、施設内運営に限定せず、地域レベルでの役割意識が高まる効果が生まれることの2点である。一方で、今後改善が必要な課題は、①研修で活用した事例教材が、研修開催地域の地理的特性において類似性が少ない場合、被害状況を想定しにくく、②アセスメントによって導き出された課題に対する具体的な対応策がイメージしにくいことである。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究3年目である当該年度(4年計画)までの達成度は以下のとおりである。 初年度は、新潟県中越地震・中越沖地震で被災した入所型介護施設の災害過程を事例に、発災から平常時に至るまでの被害状況と、提供された介護内容や職員体制、被災時における家族や地域との関わりや役割を分析し、災害エスノグラフィーを作成した。次年度は、災害エスノグラフィーに基づく教材の開発を行い、プレ研修として介護老人福祉施設で試験的にモデル研修を実施し、修正を加えた。3年目は「施設の災害過程を疑似体験できる」ことを主軸に「災害過程」という概念を用いて研修教材及びそれを活用した研修プログラムの開発を行った。この年度では、東海大地震が予測される地区(三重、静岡)を対象に、計2回のモデル研修を実施。研修受講者のアンケート結果を基に本研究で開発した研修教材とプログラムの効果検証及び改善を加えるための内容分析を行った。 これらの結果から、新潟県中越地震・中越沖地震の事例を用いた研修教材は、被害状況と災害過程に生じる主要な変化を仮定しやすく、災害イメージを個々で得られやすいことが明らかになった。加えて、その効果が、被災時に対応すべき課題を自施設の実情に応じて導くための思考過程(アセスメント)を生み出すことに効果的であること、これらが個別性の高い災害対応策を生み出すために必要であることが明らかになった。一方で、導き出された課題に対応するための具体的な対応策を見出すには十分な成果が見られておらず、今後は対応策のイメージ作りに有用な災害研修の実践例を蓄積することが必要と考えている。そのため、4年目である最終年度は、より具体的な対応策をイメージしやすい思考的な支援をプログラムの修正点として加え研究活動を進めることが必要である。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究は、①発災から平常時に至るまでの被害状況と、提供された介護内容や職員体制、被災時における家族や地域との関わりや役割を明らかにし、②これらの主要な変化(実態)に基づく災害エスノグラフィーの作成から教材を開発し、③介護福祉専門職者を対象にした研修への導入及びその効果検証をはかることを目指すものである。完成したものは、介護施設の被災経験をひとつの「災害過程」として捉え、ライフラインの損害がもたらす介護内容の変化等を時間軸との関連で整理した研修教材である。当該年度に実施したモデル研修では、個別の被災事例を材料にした演習は、被害状況と災害過程に生じる主要な変化を仮定し、これらに備えるべく「物品、業務、災害研修のあり方」等を自施設、地域の実情に応じ、課題を導きやすい(アセスメントしやすい)点で効果的であることが明らかになった。一方で、具体的な災害研修のモデル化をはかるには十分な成果が得られているとはいえない。そのため、今後は以下の2点を柱に研究を進めていくことが必要と考えている。 1)事例教材は、被災状況を疑似体験しやすいものであることに加え、研修開催地域の特性をふまえて選定することが重要である。特に、津波や土砂災害、水害等、地震に関連して発生する災害等は、地理的特性が強く、これらをふまえた被害規模の想定を加えてアセスメントできる教材の修正・補強が必要となっている。 2)アセスメントによって導き出された課題から、具体的な研修内容等の実践例を蓄積することが必要である。開発した事例教材を用いた研修プログラムは、施設各々の状況に応じた課題を捉えやすいものの、それに対応するための対策がイメージしにくい点で改善の余地がある。そのため、研修教材の補強・修正だけでなく、事業所の実践例からイメージを高めていける工夫を加えたプログラム修正が求められる。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当該年度は、これまでに作成した災害過程テキストを用いたモデル研修を計3回(静岡、三重、愛知)予定していた。しかし、愛知会場において日程調整の問題により、当該年度の実施が難しく、次年度に延期することになった。これにより、モデル研修の実施にかかわる出張旅費及び講師料等の人件費に差額が生じた。
|
次年度使用額の使用計画 |
本研究の今後の方向性として、モデル研修の効果測定(評価)に質的データの統計的な分析が必要となっている。そこで、差額分をこれにかかわる物品費(質的データの統計解析ソフト)に充てることを計画している。
|