研究課題/領域番号 |
24530781
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
結城 雅樹 北海道大学, 文学研究科, 教授 (50301859)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
キーワード | 協力 / 社会生態 / 文化 / 関係流動性 / 国際情報交換(米国、カナダ) |
研究概要 |
本研究の目的は、所属集団の選択肢が少ない低関係流動性社会では、高関係流動性社会よりも、1) 周囲から抜きんでて協力的な「突出協力者」に対する低評価や罰の行使、2) 自らの協力行動の抑制もしくは隠蔽、が起こりやすいとの予測を検証することである。年度途中で得られた予想外の結果を踏まえ、当初予定に1つ加え、計3件の研究を行った。 研究1a.突出協力者評価(場面想定法):低流動性社会に住む日本人と、高流動性社会のカナダ人を対象として実験を行った。参加者は、仮想のシナリオに登場する突出協力者と平均的協力者の望ましさについて、個人的評価および社会的評価(同じ国の人々の評価予測)を行った。結果、予想通り、カナダ人の社会的評価は、突出協力者に対しての方が高く、日本人の社会的評価は平均的協力者に対しての方が高かった。だが、関係流動性尺度による媒介効果は見られず、個人的評価の文化差も見られなかった。 研究1b.突出協力の性質(自由記述法):研究1aの予想外の結果を踏まえ、北米人と日本人が好意的もしくは非好意的に評価する突出協力行動の質的差異を探る自由記述調査を行った。すると、日本人は「協力を周囲に宣言した上での突出協力」を特に否定的に評価する一方、アメリカ人は、「協力を宣言しない突出協力」を逆に否定的に評価した。こうした突出協力の質による差異は、当初は予想していなかった重要な発見であり、次年度の中心的な検討課題の一つとする。 研究2a. 突出協力性の誇示と隠蔽(場面想定法):当初予定の実験室実験のパラダイムに問題が見つかったため、場面想定実験を行った。参加者に、高もしくは低関係流動性状況に置かれたことを念頭に自己プロフィールを作成させたところ、低流動性状況では高流動性状況よりも自己の優越点を隠蔽する傾向が見られた。ただし、その効果は主に能力ドメインで見られ、協力ドメインでの効果は弱かった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、研究1aにおいて予測しなかった結果が得られ、また研究2aにおいて当初予定した実験室実験が実施できないなど、いくつかの問題が発生した。しかしながら、前者に触発されて実施した研究1bにおいて、研究仮説を見直すことの必要を迫る重要な知見が得られるなど、失敗から得たものはむしろ大きかった。次年度以降は、新たな理論軸を考慮に入れた研究を進めていくことになる。
|
今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策を検討するに当たり、下記の三点を重視する。 1. 突出協力行動の「質」を考慮に入れること:本年度の研究1abからの知見の示唆は大きい。北米社会では過大協力者が好まれ、東アジアでは平均的協力者が好まれるという当初の予測は、必ずしも支持されなかった(研究1a)。北米人は、自ら積極的にアピールする突出協力行動を高く評価したが、一方、そうした宣言なしにひっそりと行う突出協力行動は妬みの対象となった。一方日本人は、これ見よがしな協力性のアピールは特に否定的に評価したが、影で行う協力行動は殊更に高く評価した(研究1b)。今後の研究では、なぜ両社会間でこのような差異が生じるのかという新たな問について、理論的・実証的に検討していく必要がある。 2. 関係流動性の効果を環境単位で検証すること:。本年度の研究結果の問題点は、理論的に想定されている関係流動性の効果が確認されなかった点である。この原因の一つとして考えられるのは、現在関係流動性尺度を用いて行っている文化差の媒介分析が、あくまでも個人レベルの分析に留まっている点である。この問題を克服するためには、今後、ある程度の広がりを持つ社会生態学的環境を単位としたデータ収集と分析が必要となる。 3. 実験室研究の実施:本年度は、実験パラダイムに大きな問題が発見されたため、予定されていた実験室実験の一つを場面想定法実験に置き換えた。次年度以降も場面想定法を用いた検証を続ける必要はあるが、同時に、本当に関係流動性が人々の突出協力行動の隠蔽度に影響を与えるのかどうかについては、行動実験を通じて検証されなければならない。
|
次年度の研究費の使用計画 |
一部物品の購入を延期したため発生した61,506円は、新たに実施することとしたマルチナショナルサーベイの費用に充当する。
|