研究課題/領域番号 |
24530781
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
結城 雅樹 北海道大学, 文学研究科, 教授 (50301859)
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キーワード | 文化 / 協力 / 関係流動性 / 国際情報交換 |
研究概要 |
本研究の目的は、所属集団の選択肢が少ない低関係流動性社会では、高関係流動性社会と比較して、1) 周囲から抜きんでて協力的な「突出協力者」に対する低評価や罰の行使が起こりやすく、また2) 自らの突出的な協力行動(以下「突出協力」)の自己規制や隠蔽、が起こりやすいとの仮説を検証することである。以上を検証するため、本年度は以下の3つの研究と、来年度の研究の準備を行った。 研究1:場面想定法実験:場面想定法を用いた実験により、高関係流動性状況よりも低関係流動性状況を想定した人の方が、予想通り、自らの突出協力を隠蔽する傾向が強いことが示された。一方、突出協力の誇示については、逆に低関係流動性状況よりも高流動性状況を想定した人の方がその傾向が強かった。 研究2:日米比較実験:関係流動性の異なる日米社会間で、人々の突出協力の隠蔽および誇示傾向に差があるかを、場面想定法で検討した。その結果、予測通り、高関係流動性社会であるアメリカに比べ、低流動性社会である日本において突出協力が隠蔽されやすいことが示された。ただし、誇示に関する社会差はみられなかった。 研究1,2の結果は、関係流動性の低い社会において協力行動の自発的隠蔽がなされやすいという新規な知見であり、協力行動研究、文化心理学研究などに対して大きな貢献をなすものである。以上を踏まえ、来年度に行う日米間比較実験室実験(後述)の実験プログラム作成を開始した。 研究3:突出協力者の評価(再分析):昨年度収集した突出協力者の評価に関する自由記述データを、新たな切り口から再分析した。その結果、日本人参加者が持つ貢献量平等規範の強さや、アメリカ人による突出協力者に対する両面価値的な態度など、従来指摘されてこなかった興味深い知見が得られた。さらに、来年度実施予定の多国間比較調査の準備を開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度、および本年度の研究を通じて、突出協力の隠蔽および誇示の社会差に関する研究が大幅に進んだ。特に、関係流動性の低い社会環境において突出協力者に対する批判や突出協力行動の自発的隠蔽がなされやすいとの結果は、従来注目されてこなかった新規な知見であり、協力行動研究、文化心理学研究に対して大きな貢献をなすものである。 ただし、本年度実施予定であった、突出協力の隠蔽に関する実験室実験、および多国間調査については、準備に予想外に時間がかかった。現在、来年度の実施に向けて順調に準備を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度および本年度の成果、および準備状況をふまえ、来年度は下記の3つの実証研究を行う。そのうえで、国際誌への論文投稿や、最終年度の報告書作成などを行う。 研究1:質的に異なる突出協力行動に対する評価の違いを検討する日米比較研究:突出協力者の評価に関するここまでの研究結果から示唆されたことは、1) 一概に「突出協力」といっても、その背後にある行為者の動機や、行動の提示法(誇示vs. 隠蔽)によって評価が左右される、2) この効果は、高流動性社会と低流動性社会の間で強度や方向が異なる、ことである。そこで来年度は、この変数を実験的に操作し、関係流動性との交互作用効果を検討することを通じて、高流動性社会と低流動性社会における突出協力行動の評価基準の質的な差異を探る。 研究2:突出協力行動の自己規制に関する日米比較実験室実験:本年度は、場面想定法を用い、関係流動性が突出協力の隠蔽行動に与える影響を検討した。来年度は、実験室状況での行動実験を用いた検討を行う。低関係流動性社会に住む日本人は、高流動性社会に住むアメリカ人よりも、自らの行動履歴が集団成員に明らかにされることが予期される状況で突出行動を控えようとする傾向が強いとの予測を検討する。 研究3:多国間比較調査:ここまでの研究では、本研究における主要な理論変数である関係流動性が、「日 vs. 米」という二値の変数として捉えられるか、もしくは二値の独立変数(高流動性 vs. 低流動性)として実験操作されていた。だがこれらの手法の問題点は、本当にこれらの分類、もしくは実験操作が、関係流動性(のみ)の差異をもたらしていたのかどうかが確認されていないことである。来年度は、この問題を克服するために、関係流動性が異なる多数の社会においてデータ収集を行い、環境単位を行う。具体的には、世界30カ国以上の人々を対象としたインターネット調査を実施する。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度実施予定の多国間比較調査の実施時期が来年度にずれ込んだためである。 前述のように、来年度は、この調査を含めて全3件の研究を実施する。特に、多国間比較調査に多額の出費(世界30カ国以上で調査を行うための調査票翻訳費用、調査参加者募集費用、調査参加謝礼、等)が見込まれる。
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