研究概要 |
研究の目的は、これまで南米日系人や沖縄諸島の人々を対象に実施してきた地域研究の集大成を図ることである。研究実績の概要は以下のとおりである。 1.エスニシティ:20世紀前半のブエノスアイレスを中心とするアルゼンチン日系人の生活と体験を分析し、以下の知見をえた(辻本・Kuda, 2012)。①かなりの戦前移民は貧困と格闘し「日本に帰るのか否か」をめぐって紆余曲折を繰り返したと考えられる。②日系人は日常生活でしばしば「日本人」と呼ばれるが、戦前の二世にとって日本は想像上の曖昧な存在だった。③日系人はアルゼンチン社会から排斥されていないが、アジア系の風貌から疎外感をもつ者も一部にいる。④日系人は肯定的に評価されているといわれるが、肯定的な評価は時期と状況によりさまざまな意味を帯びていた可能性がある。 2.生活史:インテンシブな生活史の聞き取りができているアルゼンチン日系人の事例に焦点をあて、出生から移住をへて現在にいたる生活史全体の包括的な分析を行った。あわせて、生活史の地域的・時代的な背景を分析するために、文献資料の収集および現地調査を実施した。 3.社会的交換:対象としたのは講集団である。講集団とは数十人の参加者が資金を交換して助け合う慣習である。これまで蓄積してきた南米日系人および沖縄の講集団の知見を理論的に総括し、以下の知見をえた(辻本, 2013)。講集団には、面識関係にもとづく参加者選抜により資金交換の脆弱性を克服し、翻って資金交換にともなう自己束縛により面識関係の脆弱性を克服するという円環的構図がある。この構図を、集合行為論や社会関係資本に関する従来の知見を踏まえて、より一層精密に分析するとともに、講集団のような慣習を研究することの実践的意義について検討を加えた。
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