研究課題/領域番号 |
24530784
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
橋本 剛 静岡大学, 人文社会科学部, 准教授 (60329878)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 社会心理学 / 援助要請 / 援助行動 / ソーシャル・サポート / 互恵性規範 / 社会的交換 / 心理的負債感 / 社会的スキル |
研究概要 |
「人々はお互いに助けあうべきである」という互恵性規範は、基本的には援助行動の促進要因として想定されることが多い。しかし、援助提供のための諸資源が不足している人々にとって、受容と同等の援助を提供するという互恵的援助行動の達成は困難であり、そこで互恵性規範を過度に強調することは、過剰利得による心理的負債感を増幅させることになりかねないので、そのような事態を回避するために、たとえ援助要請を必要とするような状況でも援助要請を抑制しやすくなる可能性が想定される。本研究の目的は、このような援助要請抑制傾向に対する援助提供可能性と互恵性規範の交互作用効果について検討することであり、その知見は、格差や弱者へのバッシングが顕在化している現代日本社会における適切な援助行動のあり方を議論する上で有用であろう。 そこで初年度は、その実証的検討の前提となる概念定義、理論、仮説を明確化するための先行研究レビューと、尺度開発を目的とした予備調査の実施を計画した。 まず先行研究レビューについては、文献研究および国内外の学会・研究会参加を通じて情報収集・整理を進めた。その成果の一部はナカニシヤ出版より刊行された学術書「対人関係の社会心理学」の一章「なぜ「助けて」と言えないのか?援助要請の社会心理学」としてまとめられ、日本を含む東アジアでは心理的負債感が援助抑制の重要な規定因であることが、あらためて指摘された。 また、尺度開発のための予備調査については、大学生を対象として、援助提供可能性(暫定的に「貢献可能性」という概念を想定)の個人差を測定するための心理尺度の開発を意図しての調査が実施された。しかし、そこで構成された貢献可能性尺度には、社会的スキルとの弁別的妥当性が不十分であるなどいくつかの問題があったので、現在、それらの問題点を修正した新たな心理尺度を開発するための追加研究を実施中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究目的に照らし合わせての現在までの達成状況は、総じて当初の想定よりも若干の遅れが生じているものの、基本的には想定の範囲内であると考えられる。 まず先行研究を踏まえながらの概念、論点、仮説などの理論的構築に関して、本研究の基本的な従属変数となる援助要請行動については、従来の個人特性や個人属性を中心とした議論に加えて、社会文化的要因の重要性を加味した議論を展開するまでに進展しており、先述したようにその概要を学術書の一章としてまとめるまでに至っている。しかしながら、本研究の独立変数として想定される互恵性規範と援助提供資源については、論点が整理され、議論が十分に熟したと言える段階までには至っていない。その理由として、互恵性規範と関連する社会的交換や心理的負債感についての議論もさることながら、援助提供資源に関連する利他性や社会関係資本に関する研究が、現在、社会心理学に限らずさまざまな学問領域において非常に活発に研究が行われている最先端のトピックとなっており、それゆえに、本研究が参照すべき先行研究の知見も膨大になっていることが挙げられる。しかし、そのような状況も想定の範囲内であり、理論構築は今後も継続的に行うこととなるであろう。 また、尺度開発のための予備研究において、得られた結果が芳しくなかった理由のひとつとして、上記の論点と連動する形で、理論的な検討がやや不十分であったことによる影響があることは否めない。しかしながら、このような形による研究計画の若干の遅れもまた想定の範囲内であり、今後の研究計画を適切に遂行することによって、十分にリカバリーは可能であると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
前年度に引き続き先行研究レビューなどに基づく理論的検討を継続しつつ、実証的検討のための調査研究に重心をシフトして、以下の2つの調査研究を実施する予定である。 まず研究1として、大学生を対象とした短期縦断質問紙調査を実施する。この研究1は当初計画では初年度に開発された尺度を用いてのワン・ショット・サーベイを想定していたが、先述したように尺度開発が計画通りに進まなかったことを受けて、それを補填する意味も含めての短期2波縦断調査に研究計画を変更する。まず第1波調査において、援助提供可能性の個人差として想定される「貢献感」を測定するための尺度を構成し、その内的一貫性と基準関連妥当性について検討する。次に第2波調査においては、同尺度の再検査信頼性を検討する。それとともに、「互恵性規範が強いほど、その規範を実現するための資源が欠如している者は援助要請を抑制する」という本研究の基本仮説を検討するために、(援助提供可能性の指標としての)貢献感と、(互恵性規範の主観的認識の指標としての)心理的負債感が、援助要請傾向に及ぼす交互作用効果について検討する予定である。 次に研究2では、一般成人を対象とした調査を予定している。具体的には、全国規模の大規模モニターを有するインターネット調査会社のサンプルを利用したインターネット調査を行う。また、質問内容は研究1で用いた尺度をベースとしつつも、さらに調査協力者の種々の資源の個人差を反映できる形で、互恵性規範が異なるさまざまな対人関係での援助要請傾向について検討する。この調査では、本研究の仮説が現代日本社会においてどの程度の普遍性を有するのかを明らかにするとともに、諸資源の中でもどの資源が相対的に重要なのか、そして資源が不足していても援助要請を行うための社会的条件(関係流動性など)についても、探索的に検討する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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