ステレオタイプを抑制するさいに,どのような代替思考を利用すれば,抑制の逆説的効果(ステレオタイプの抑制後に,ステレオタイプのアクセス可能性が高まるという現象で,抑制のリバウンド効果ともいう)を低減できるかを検討するために,3つの実験を実施した. 実験1は,ステレオタイプの下位構造をなすサブタイプの代替思考としての使用されやすさに着目し,サブタイプの確立度(ないしは明瞭度)が高い人ほど,抑制の逆説的効果を生じにくいという仮説を立て,女性ステレオタイプの抑制のさいに男性の実験参加者について,この仮説を実証し,論文として公刊した.(なお,女性の実験参加者については,仮説は実証できなかった.) 実験2は,サブタイプの利用可能性を規定すると考え個人差変数として認知的複雑性に着目し,認知的複雑性が高い人ほど,抑制の逆説的効果を生じにくいという仮説を立て,女性ステレオタイプの抑制のさいに男性の実験参加者について,この仮説を実証し,論文として公刊した.(なお,この実験でも,女性の実験参加者については,仮説は実証できなかった.) 実験3は,実験2の概念的追試であるが,抑制の逆説的効果の測定方法を改良し,女性ステレオタイプ抑制後に女性ステレオタイプの非意識的な潜在測定を行った.その結果,男性と女性の実験参加者に共通して,認知的複雑性の高い人ほど,抑制の逆説的効果が生じにくいという仮説が実証され,論文として現在審査中である. これらの成果は,ステレオタイプの抑制による逆説的効果を低減できる可能性を実証的に示すものとして重要な意義を持つと考えられる.
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