研究課題/領域番号 |
24530795
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 明治学院大学 |
研究代表者 |
宮本 聡介 明治学院大学, 心理学部, 准教授 (60292504)
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研究分担者 |
太幡 直也 常磐大学, 人間科学部, 助教 (00553786)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 説明行為 / コミュニケーション / post explanation effect |
研究概要 |
本研究の目的は、説明という行為が説明行為者自身に与える心理学的影響(以下これをPost Explanation Effect: PEx効果と表す)を明らかにする事である。当該年度には文献研究、および3つの実験的研究を行った。 文献研究の結果、説明行為の回帰的影響を検討した研究は教育心理学分野と社会心理学分野に集中していた。教育心理学分野では、自己説明効果、教え手学習効果などにみられるように、説明行為それ自体が説明行為者の理解の一助になる事を示す研究が多数みられた。社会心理学分野では、まず、自己生成的態度変容、自己説得効果のように、説明行為が説明対象に対する態度に与える影響を検討する研究がレビューされた。一旦形成された初期態度は覆しづらい事が信念固執効果の研究で報告されている。この信念固執効果が、説明行為によってより強固になる事を示した研究についてレビューを行った。情報の受け手の態度にあわせて自分の意見を「表明」する事によって、認知が歪む事を示したSaying is Believing効果とその延長線上にあるShared Reality理論についてもレビューを行った。 3つの実験的研究からは次のような知見が得られている。「架空の心理用語」に対する説明経験が、心理用語の実在生認知に及ぼす影響が確認された(実験1)。「架空の心理用語」の説明の上手さが、心理用語の実在生認知に及ぼす影響が確認された(実験1、実験2)。嘘情報の説明経験が、嘘情報の真実性に及ぼす影響はみられなかった(実験3)。実験2については社会心理学会(筑波大学)において学会発表を行った。これらの研究成果について、3月中旬に研究報告会を実施した。この報告会では次年度以降の研究計画についても議論がなされた。 当初の計画通り、当該年度にPEx効果の概観が検討され、十分な成果があげられたと考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
『説明経験』が説明対象に対する説明当事者の認知に及ぼす影響の総称を、本研究ではPEx(Post Explanation)効果と呼んでいる。本研究の目的は、1.PEx効果の生起条件を実証的に明らかにすること、2.PEx効果に介在する心理的媒介変数を明らかにし、PEx効果を俯瞰的に説明できるモデルを構築することである。 文献研究の結果から、本研究ではPEx効果の3段階モデルを検討している。3段階モデルでは、説明行為の経験のレベル、相互作用のレベル、リアリティのレベルのそれぞれのレベルで強度の異なるPEx効果が生じるだろうと予想する。経験のレベルでは説明経験の有無、説明の容易さ、自己説明と他者説明、繰り返し説明などの要因が取り上げられた。相互作用のレベルでは他者を想定しない自己完結的説明か他者への説明か、FTFかバーチャルな説明かなどの要因が取り上げられた。リアリティのレベルでは説明他者との間で説明内容が共有されているかどうかに関する感覚(Shared Reality)の要因が取り上げられた。また、PEx効果を媒介する各種要因についてのり論的な検討もある程度行う事が出来た。この事から、PEx効果包括モデルの理論的な検討は初年度である程度整理できたと考える。 当該年度に実施した3つの実験は、PEx効果の生起要因に関する基礎的実証研究に位置づけられる。「架空の心理用語」を用いた実験1、実験2からは、説明経験そのものがPEx効果を生起させる可能性を示唆したといえる。これにより、基礎的な実証データを収集する事に成功しことになり、初年度の目標はある程度達成できたと考える。 次年度以降、さらにいくつかの実証研究を実施し、PEx効果の俯瞰モデルの個々のパーツを実証データによって埋めてゆく作業が必要であると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
理論的検討の結果から、自己生成、利用可能性ヒューリスティックス(尤度、実在性、生起可能性)、単純接触効果(話題への好意度)、メンタルモデルの(再)構成、利用可能性ヒューリスティックス、説明の容易さ、反実仮想、コミットメント・自己高揚動機、一貫性規範(社会的望ましさ、公的自己意識)、リアリティ認知、他者からのフィードバックの各要因がPEx効果に媒介している可能性が予想される。次年度は、これらの媒介変数の中から、PEx効果の生起を予測する上で、社会的に有用な変数を取り上げ、その効果を実験的に検討する。従って、次年度は実証的な研究を進めてゆく事が、本研究の主たる活動となる。 なお、初年度は宮本(研究代表者)と太幡(研究分担者)とで本研究を進めてきた。しかし本研究費を申請する際には、もう一人、分担研究者(菅さやか氏)を登録する予定でいた。事情により、初年度、菅氏を分担研究者に迎え入れる事が出来なかったが、次年度から菅氏を分担研究者として迎えられる事になった。そこで、次年度は、3人体制で研究を進めてゆく予定である。宮本・菅はPEx効果の媒介変数を実証的に検討してゆく予定である。太幡はこれを「自己欺瞞」の領域で検討してゆく予定である。 また、昨年度実施した実証研究のデータは、社会心理学会(沖縄国際大学)で発表を予定している。同時に、査読付き学会誌等への投稿論文の執筆を進めてゆく。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度は合計70万円の研究費を計上している。これを太幡氏の分担金として10万円、菅氏の分担金として30万円計上し、残りの30万円を宮本が使用する。なお、宮本は24年度経費に10万円ほどの残額があるので、これをプラスし次年度の研究費の合計額は40万円となる。内訳は以下の通りである。 宮本(40万円):25年度は実験の実施回数が多くなる。実験補助のための人件費を20万円計上した。文献研究も継続的に行ってゆく。これに必要な図書購入経費等を8万円計上した。学会等での発表を予定している。参加のための交通費として5万円を計上した。その他にOA消耗品費として5万円、研究打ち合わせ等に必要な会合費を2万円計上した。 太幡(10万円):H25年度は太幡氏を発表代表者とする学会発表を1件予定している。これに必要な旅費を5万円計上した。その他にOA消耗品費として5万円計上した。 菅(30万円):本年度が本科研費研究の初年度となる。実験実施・データの整理等に必要なPC等の購入を予定しており、これに20万円計上した。その他に学会参加費として5万円、OA消耗品費として5万円計上した。
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