前年度までの研究で,1)情報の非対称性を伴う二者間では,情報劣位者が優位者の恣意的な情報操作を疑う合理的理由が状況により所与であり,そのことを理解している情報優位者の劣位者のリスク回避的行動に対する疑いが情報操作の誘因となるため,相互不信に陥りやすく,脱しにくいこと,2)このような情報の非対称性が存在する状況での相互不信に陥らないためのオプションとして,情報優位者の報告行動の“監視”をオプションとして実験デザインに導入し,オプションの存在が情報優位者の正直行動(情報操作をしない)を促進すること,一方で監視オプションを頻繁に行使する二者は,オプション使用頻度が低い二者と比較して,相互に対する信頼が試行を続けるに伴い低下していく傾向にあることを示した。 ただし,二者関係における監視の行使は相手に対する不信のシグナルとなり相互信頼を損なう効果が大きく,監視が相互信頼の形成に寄与する効果は検討できなかったため,本年度の実験研究では,監視を情報劣意者が行使する直接監視と,第三者が監視する間接監視とに区別して,監視の相互信頼に及ぼす効果を明らかにするための実験を行った。その結果,直接監視条件と間接監視条件とで,相互作用を繰り返すことにより,認知変数としてリッカート尺度で測定した「相手に対する信頼」および行動変数として測定した信頼ゲームにおける預託額に有意な差は見られなかった。ただし,実験参加者を性別で分けて同様の分析をした結果,女性においては間接監視条件での預託額の方が直接監視条件でよりも大きく,直接監視よりも第三者による監視の方が,情報優位者の劣位者に対する信頼を高める効果を持つことが示された。つまり,女性参加者では,情報優位者の正直行動を促進する監視は,相互作用の相手が行う場合は不信のシグナルとなるが,第三者が行う場合は相互作用する二者間の信頼形成に寄与する可能性が示唆された。
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