研究課題/領域番号 |
24530813
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
小林 敬一 静岡大学, 教育学部, 教授 (90313923)
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キーワード | 書かれた論争 / 複数テキスト / テキスト学習 / 複数文書モデル / 高次リテラシー |
研究概要 |
本年度は,まず,書かれた論争からの学習メカニズムに関して昨年度実施した実験の結果を分析し論文にまとめて投稿した(この論文は学会誌に掲載が確定している)。加えて,次の3つの研究を実施した。 1.出所が批判的統合に有用な情報を提供する場合に論争的な複数テキストから複数文書モデルが構築されるか検討する実験を,大学生を対象にして実施した。実験の結果,予想に反して,出所情報の有用性にかかわらず,複数状況モデルと間テキスト・モデルを備えた複数文書モデルが構築されることが示された。 2.書かれた論争からの学習において重要なテキスト間関係の理解に及ぼす読解課題の影響を検討する実験を,大学生を対象にして実施した。この実験では,読解中にとったメモの内容に着目し,読解課題がその内容に影響するかどうかだけでなく,メモがテキスト間関係の理解に影響を与えるかどうかについても検討した。実験の結果,読解中に,テキスト間関係に注目したメモをとること,あるいはテキスト間関係にメモを向けることがテキスト関係の理解を促進することが示された。この結果は,書かれた論争からの学習においてテキスト間関係を自発的に理解しようとしないことが,学習の失敗につながることを示唆しており,書かれた論争からの学習メカニズムの一端を明らかにする重要な知見と言える。現在,これらの成果を論文としてまとめ投稿する準備を進めている。 3.書かれた論争からの学習メカニズムと関係性が深い持続的影響効果に関する先行研究の知見を整理・統合するメタ分析を実施した。メタ分析の結果,誤情報の訂正によって状況モデルが部分的に更新されるが完全に更新されるわけではないこと,誤情報の撤回に加えて代替説明・原因を提示することが更新を促すことが示された。現在,この成果をまとめて学会発表する準備を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の計画では,昨年度に引き続き,論争的な複数テキストから批判的統合を介して構築される記憶表象の解明に向けた研究をおこなうこと,さらにその構築過程の解明につながる研究をおこなうことも目標としていた。この目標に照らして,大きく3つの研究を実施した。その結果,出所情報が有用な場合であっても複数文書モデルが構築されることや,読解中にテキスト間関係に注目すること(あるいは,さらにメモという形で外化すること)がテキスト間関係の理解を促すことを実験的に示し,持続的影響効果に関するメタ分析を通して書かれた論争からの学習メカニズム解明の手がかりをいくつか得ることができた。以上のことから,「おおむね順調に進展している」と評価した。
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今後の研究の推進方策 |
次年度における研究の推進方策は次の3点である。 1.書かれた論争からの学習メカニズムの解明をさらに進めるため,今年度の研究で検討できなかった要因の影響を調べる実験をおこなう。具体的には,論争的な複数テキストから構築された記憶表象が時間の経過とともにどう変化し,またそれらの変化は読解時の処理とどのように関係するのかを実験的に検討する。 2.これまで得られた実験データのうちまだ論文にまとめていないものや,「1」の研究により新しく得られるだろうデータを論文にまとめ,学会誌に投稿したり学会発表したりする。 3.次年度は,本研究課題の最終年度にあたるため,3年間の研究を通して得られた知見を統合する作業を行う。そして,それらの知見や関連する先行研究の知見を合理的に説明できる,書かれた論争からの学習メカニズムに関するモデルを作成し提案する。
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