研究課題/領域番号 |
24530819
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
谷 冬彦 神戸大学, 人間発達環境学研究科, 准教授 (70320851)
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研究分担者 |
小野 博史 共愛学園前橋国際大学, 国際社会学部, 非常勤講師 (30573042)
稲垣 実果 京都聖母女学院短期大学, 児童教育学科, 講師 (40537990)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 教育系心理学 / 民俗学 / 甘え / 友人関係 / パーソナリティ |
研究概要 |
本年度は,各自が担当分野についての文献・資料の収集を行い,先行研究の課題を明らかにするとともに,本研究の意義と展望を確認し,研究の方向性を明確化した。以上の作業を踏まえて,全員参集の研究会を開催し,25年度以降に実施する調査の方向性についての討議を行い,調査地点および調査内容を明確化した。 各自の文献研究についてであるが,心理学領域では,これまでの「甘え」研究の整理とまとめを行った。具体的には近年,海外での「甘え」に関する理論的研究も増えており,それらも含めて,「甘え」研究を総括した。さらに,若者の友人関係についての研究の整理とまとめを行った。特に,現代の若者の友人関係研究は精神医学者などがエッセイ的に書いた現代若者論を前提とした研究にとどまっており,現代における若者の友人関係の実態については,ほとんど何も明らかにされていない。以上の問題意識から若者の「甘え」と友人関係が,どのように関係するのかを文献学的に考察を進めた。民俗学領域における文献研究は,関東および関西の若者仲間についての整理と理解を得ることを目的とした。また,若者習俗に関する記述について整理し,調査地選定の資料とした。 研究会については,神戸大学で1回,共愛学園前橋国際大学で1回,全員参集で開催した。また,共愛学園前橋国際大学では研究代表者と分担者1名による研究会と打ち合せを実施した。都合3回の研究会では各自の担当分野についての研究成果をまとめ,先行研究の課題,本研究の意義と展望について発表した後に,質問紙作成のための討論を行った。また心理学分野の調査実施校の選定と調整,民俗学分野の調査実施地点の設営についても意見交換を行い,調査地を策定した。なお,稲垣は若者の友人関係に関する直近の研究動向を把握する目的で,日本教育心理学会54回総会に参加し,そこで得た知見について,研究会の席上で報告を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
心理学分野の文献研究では,「甘え」と友人関係に関する近年の文献を検討し,「甘え」と友人関係に関する知見を文献学的に深めた。そのような文献研究をもとにして,質問紙について検討し,心理測定尺度の選定と新たな質問項目の作成を行った。具体的には,既存の尺度としては,谷(2000)の甘え尺度,稲垣(2007)の自己愛的甘え尺度,安井・谷(2008)の友人関係尺度,谷(2001)の多次元自我同一性尺度などが選定された。さらに,「甘え」の様相を明らかにするために,甘えに対する態度項目を,討論の上で,新たに11項目作成した。これら全部で119項目からなる質問紙を確定し,質問紙のレイアウトについても決定した。したがって,質問紙については,ほぼ完成したと言える。 また,調査の実施については,関東と関西で,調査を行う大学をほぼ確定した。具体的には,すでに関東で5大学,関西で4大学から,調査実施の許可を得ている。 民俗学分野の文献研究では若者習俗の地域的傾向の把握と,先行研究の課題の明確化,調査地選定の方針を固めた。関西地方については親しい友人関係を示す語彙が顕著であること,一方で関東地方ではそのような語彙はほとんど見られないことが明確になった。加えて,関西と関東の友人関係を比較検討した研究は行われていないことが確認できた。調査地は都市近郊の集落・町内会を対象とすることとした。関西では大阪府沿海地域,関東では千葉県松戸市・東京都多摩市・群馬県館林市を候補地として選定した。 以上,心理学分野および民俗学分野において研究は計画通り進捗しており,達成度は,おおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
心理学分野では質問紙調査の実施,民俗学分野ではフィールドワークを実施する。全員参集の研究会を神戸大学および共愛学園前橋国際大学で5回開催し,引き続き各自の研究成果を発表するとともに,調査実施の打ち合わせと調査後のデータ整理についての検討を行う。 心理学分野では,関東・関西で10校程度を対象に調査を実施する。調査対象者数は,関東,関西それぞれ1000名程度を予定している。調査は研究参加者の担当授業はもちろんのこと,他校においては,授業担当教員に依頼し,授業中に集団的に実施する。数校については,研究代表者が直接出向いて調査にあたる。心理学領域における質問紙調査の意義は,まず若者の「甘え」の心理や友人関係について,心理測定尺度によって,数量的に捉えることにある。「甘え」の心理や友人関係の構造の相違や,関連性の相違について,数量的に検討する。質問紙調査実施後は随時データ入力と分析を実施する。作業者には研究代表者の本務校である神戸大学の心理学専攻の学生を雇用することを予定している。 民俗調査については,質問紙調査で得られた調査対象者の出身地および民俗語彙の情報から調査項目を策定し,関東,関西で各1地点の調査地を選定して民俗調査を実施する。なお,関東地方については分担者が過去に調査を実施した地点を調査地に選定していることもあり,基礎的なデータを得ており,短期の調査にととどめる。一方,関西地方については先行研究が乏しいだけでなく,分担者が初めて調査を実施するという状況にあるため,複数回の調査ないしは長期に及ぶ調査の実施を検討する。調査の際には24年度購入のタブレットPCとSDカードを活用して,被調査者に古写真を示して過去の慣行についての調査を円滑化する。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度使用額が20万円ほどあるのは,旅費として計上していたが,研究参加者間で会議の日程が合わず,会議ができなかったためである。この分については,次年度の会議旅費として使用する予定である。 平成25年度は調査と会議が活動の中心となる。前記の通り,全員参集の会議は年5回設定する。会議は国内旅費(2泊3日)5回とする。設備は原則として各所属機関のものを使用する。また基礎的な文献も各々の大学図書館に所蔵されており,これを活用する。会議は最低限とし,できる限りメール等で打ち合わせを済ませることで,研究費を調査旅費と調査資料の整理分析に必須のソフトウェアや機器に割り当てる。 心理学分野では,国内旅費として関東での質問紙調査(2泊3日)4回とする。また心理学領域の統計ソフトとして,基本的な統計分析用であるSPSS Statistics Base(教育版),構造方程式モデリング(SEM)用としてAmos(教育版)を,それぞれ2名分購入する。データの共有化および作業の効率化をはかるために,同じソフトを用いることは必須となるためである。また25年度は研究代表者の本務校の学生を雇用して,資料分析(110時間)と資料整理データ入力(50時間)を実施する計画である。なお,資料分析・資料整理はパソコン等の情報機器を用いるが,予算の許す範囲で資料の管理・保全のために情報機器の拡充も検討したい。 民俗学分野については,フィールドワーク調査に用いる国内旅費を計上する。前記のように関西地域の調査に注力する必要があるため,関西地域民俗調査(3泊4日)2回,関東地域民俗調査(2泊3日)1回を計画する。なお関西地域の調査地に関連する優良な文献資料があれば,この購入も検討したい。
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