研究実績の概要 |
公立ろう学校幼稚部3歳児入園時から3年間、クラスの保育場面を縦断的に観察・ビデオ録画を行い、あわせて、3歳児クラスの補聴器装用女児(A子:仮名)の手話及び、音声言語の発達について個別始動場面で縦断的データを収集した。その結果を、2015年9月11日に、17th European Conference on Developmental Psychology(University of Minho, Braga, Portugal)において、Bilingual Signed and Spoken Japanese Language Acquisition in a 3-year-old Child と題し、以下のような内容として報告した。 3歳児2学期の時点での教師による個別指導場面(約40分)でのA子(高度難聴児。補聴器装用により、音声発話には方言の特徴も見られる)の自発的発話を分析した。自発的発話25発話の内、音声発話・手話が1発話に含まれたコード・ブレンディング発話は19発話あったが、この内、6発話は、手話と音声発話の不一致が見られた。不一致のパターンはⅰ)一方の発話の誤り(例:音声は「来た」、手話<帰った>)、ⅱ)相補的関係(例:音声「星や」、手話<一緒>)、ⅲ)文末の指さし、この3つに分類された。とくに、文末の指さしは手話独特の表現であり「主語の明示」として知られているが、観察で見られた文末指さしは、話者である「行為主」を示す場合だけでなく、「対象語」である場合もあり、主語というより、「主題」の明示・確認と解釈された。いずれも音声言語では言及されなかった。日本語の会話において、主題は、既知の情報として省略されてもおかしくない。こ文末の指さしに特徴的だった、バイモダル発話の不一致は、手話と音声言語の2言語獲得状況において、音声言語・手話がそれぞれ異なる統語構造として別々に獲得される可能性を示唆した。
|