研究課題
基盤研究(C)
本研究は、日本人青年のアイデンティティ形成の特質を比較文化的な視点から明らかにすることを目的とする。本年度は,1)研究全体を通して使用するUtrecht-Management of Identity Commitments Scale (U-MICS)の日本版を作成し,2)U-MICSを用いて日本人大学生のアイデンティティ形成の特徴を検討した。結果は以下の通りであった。1.日本版U-MICS(対人関係領域・教育領域)の因子的妥当性と信頼性,教育領域の妥当性が概ね確認された。一方,対人関係領域の妥当性に問題が残ったため,原因と対応を検討中である。2.大学生605名(平均年齢20.71歳)を対象に,U-MICS,文化的自己観(相互協調性・相互独立性),自尊感情、人生満足感を用いた質問紙調査を実施し,以下のことが明らかになった。(1) 文化的自己観とアイデンティティ形成の関係:対人関係領域のアイデンティティは教育領域のアイデンティティより,相互独立的自己観と相互協調的自己観の両方と関連していた。このことは,日本人大学生は対人関係領域のアイデンティティを形成する際に,自己の独自性を追求すること(相互独立性の取り入れ)と集団や対人関係への適応(相互協調性の取り入れ)の両方の課題に取り組んでいる可能性を示唆する。(2) アイデンティティと自尊感情,人生満足感の関連:対人関係領域のアイデンティティの方が教育領域のアイデンティティより,自尊感情と人生満足感を強く予測していた。このことは,日本人大学生においては,日本文化の要求(自己の独自性の追求より集団や対人関係への適応を強調)と合致する方向へアイデンティティを形成することが,精神的健康を高めることを示唆する。以上は,これまであまり明らかにされてこなかった,日本文化におけるアイデンティティ形成の道筋の一端を解明した重要な成果である。
2: おおむね順調に進展している
研究の目的は概ね達成されたが,使用尺度の妥当性の検証が一部未達成のため。
24年度に引き続き研究1(U-MICSを用いた日本人青年のアイデンティティ形成の特質の検討)を実施する。25年度は,勤労青年300名を対象に、大学生と同様の質問紙調査を行う(研究1-2)。調査内容は、UMICS、自尊感情、主観的幸福感、文化的自己観(相互協調性・相互独立性)などである。ただし大学生とは異なり、勤労青年のアイデンティティ形成を規定する要因として、勤務形態(正規・非正規)、職種、収入などが想定されるので、それらも含んで幅広くデモグラフィックな指標を取る。データ分析は、アイデンティティの感覚については、1)UMICSにおけるアイデンティティ形成の3次元(コミットメント、深い探求、コミットメントの再考)の得点の組み合わせによるアイデンティティ・ステイタスの分類および分布の検討、2)重要な領域を特定するために、UMICSにおけるアイデンティティの領域(対人関係領域 ・個人内領域)のいずれが青年の精神的健康(自尊感情、人生満足感)を強く規定するのか検討する。アイデ ンティティの形成プロセスについては、1)UMICSにおけるアイデンティティ形成の諸次元の程度およびそれらの間の関係のあり方、2)文化的自己観の程度とアイデンティティ・ステイタスの関係等を検討する。また、上記のような大学生と同様の分析に加えて、デモグラフィック要因とアイデンティティの関連についても検討する。さらに、大学生との比較検討を行う。ここまでの研究成果を、アイデンティティ形成研究学会(米国)で発表する予定である。
勤労青年を対象にした質問紙調査を計画しているので,調査用紙の郵送のため通信費、データ入力等のための調査補助の謝金を申請する。また研究成果をアイデンティティ形成研究学会(米国)で発表する予定であるため,成果発表の外国旅費を申請する。
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New Directions for Child and Adolescent Development
巻: 138 ページ: 123-143
10.1002/cad.20025