研究課題
本研究は、日本人青年のアイデンティティ形成の特質を比較文化的な視点から明らかにすることを目的としている。本年度は,1)Utrecht-Management of Identity Commitments Scale (U-MICS)の日本版の作成を完了させ,2)U-MICSを用いて勤労青年のアイデンティティ形成の特徴を検討した。結果は以下の通りであった。1.日本版U-MICS(対人関係領域・教育領域)のうち,対人関係領域の妥当性に問題が残ったため,原因を究明した。その結果,選択した他者によって諸変数との関連が異なり,母親を選択した者では妥当な結果が得られたが,それ以外を選択した者ではそのような結果が得られないことが分かった。これを踏まえ以後の研究では,本領域の結果の解釈を慎重に行うこととした。2.20代の働く若者199名(平均年齢21.83歳)を対象に,U-MICS,文化的自己観(相互協調性・相互独立性),自尊感情、人生満足感を含む質問紙調査を実施し,以下の結果を得た。(1) 文化的自己観とアイデンティティ形成の関係:仕事領域・対人関係領域のいずれでも,コミットメントの次元のみで大学生と同様の自己観との関連が見られた。具体的には,仕事領域のコミットメントは,相互独立性とは関連していたが相互協調性とは関連していなかった。対人関係領域のコミットメントは,相互独立性と相互協調性の両方と関連していた。(2) アイデンティティと自尊感情,人生満足感の関連:仕事領域ではコミットメントが自尊感情と人生満足感の両方を正に予測したのに対して,対人関係領域ではコミットメントの再考が自尊感情のみを負に予測していた。以上から,社会人ではアイデンティティの形成(深い探求,コミットメントの再考)ではなく実行(コミットメント)の次元が,文化的自己観の制約を受けたり,精神的健康を促進することが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
研究の目的は概ね達成されたが,ここまでの結果をまとめた投稿論文の一部がまだ採択に至っていないため。
今後は、研究2として、研究1で得られた知見を諸外国の知見と比較して、日本人青年の特質を明らか にする。1. まず、今回同時期に共同でデータ収集を行うイタリアの青年群(大学生・勤労青年)との直接的な比較検討を行う(研究2-1)。この分析については、イタリアの研究協力者が行うことになっている。イタリアでの 研究は、申請者の日本での研究よりも大規模なものが計画されているので、日伊の比較検討に際しては、日本人 青年のデータにあわせて、イタリア人青年のデータを部分的に取り出すことになる予定である。2. その後、時期を異にして収集される(された)諸外国(西欧・東欧諸国、南米諸国、米国、中国など)の 青年群(主に大学生)と比較検討を行う(研究2-2)。この比較は、主に間接的な方法で行う。具体的には、 UMICSを用いたデータを集積しているオランダでの研究討議、青年研究学会(米国またはカナダ)での各国の研究者とのシンポジウムを通した検討を考えている。詳細については、UMICSを用いている各国のアイデンティテ ィ研究者のコミュニティを統括するイタリアの研究協力者と緊密に討議しながら進める。3.最後に、知見をとりまとめる。研究1および2の成果を踏まえて、日本人青年のアイデンティティ形成の 特質について考察し、比較文化的視点から見たときの、その位置づけについて見解を得る。
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青年心理学研究
巻: 25 ページ: 125-136