研究課題/領域番号 |
24530829
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
假屋園 昭彦 鹿児島大学, 教育学部, 教授 (30274674)
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キーワード | 対話活動 / 授業デザイン / 対話指導方法 / 教師育成 |
研究概要 |
本研究は,小学校での授業に対話活動を導入する目的が論理の構築力にある,という理論的枠組みに立つ。そのうえで児童の論理の構築力形成に資する対話指導力をもった教師を育成するための授業デザイン開発を目的とした。上記の目的達成のために実施した研究において,25年度は以下のような進展と実績をあげた。 第一に,進展面として研究対象とする対話活動の範囲を拡大した点があげられる。24年度までは児童同士の班別対話活動のなかに教師が参加するという学習形態を研究対象としていた。25年度からは,児童同士の班別対話活動に加え,一斉指導時の教師と児童との対話を研究対象とした。こうした試みによって,授業全体を一つの対話システムとして捉え,このシステムのなかで,児童の論理構築力に資する授業デザイン開発が可能になる。 この研究で開発した授業デザインは,24年度までに開発した児童同士の対話における抽象命題と具象命題との対話サイクルを授業全体に拡大させた内容であった。すなわち,授業の学習目標を抽象命題の形で提示し,授業全体をとおして教師と児童とが抽象命題と具象命題との思考サイクルで対話を進めるという授業デザインを開発した。本デザインによる検証授業を小学校低学年および高学年で実施し,実践可能であることを実証した。 第二の授業デザインとして,対概念を対比させる形の対話サイクルモデルを考案し,理論的枠組みを構築した。このデザインは,一見,対立しているように見える対概念を比較し,その関係性を明らかにすることによって対になっている概念の本質を明らかにするという思考方法の習得を目的とする。25年度は,この理論的枠組みを論文化したうえで,小学校中学年を対象に検証授業を行った段階である。検証授業の分析と論文化は26年度に実施する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在まで,研究計画は順調に進展している。24年度は,これまで未確立であった児童同士の対話活動の指導方法と評価規準を開発した。25年度は,児童同士の対話活動から授業全体をとおした対話活動に研究対象を拡大した。この研究のなかでは二種類の授業デザインを構築した。第一のデザインは,抽象命題と具象命題との往還による対話システム型の授業デザインであった。このデザインは小学校の低学年および高学年において検証授業を行った。第二のデザインは,対概念を対比させる形の対話システム型の授業デザインであった。このデザインの理論的枠組みはすでに論文化し,すでに小学校中学年において検証授業を行った。 これらの研究成果は以下のようなかたちで公表された。まず論文では三本の紀要論文として報告された。また学会では自主シンポジウムの話題提供として報告された。 研究成果の公表は,こうした学会内だけの報告にとどまらず,小学校の教員に向けても行われた。第一に本研究で実施された検証授業は,研究代表者が主催する小中学校教員を対象とした研究会で報告され,検討された。第二に,本研究の授業デザインは,鹿児島大学教育学部代用附属鹿児島市立田上小学校の25年度研究公開授業で取り入れられ,鹿児島県内の小学校教師に公開された。第三に本研究内容は,小学校教諭の自主勉強会である鹿屋市実践道徳部会でも報告され,鹿屋地区でも今後,実践を広げていく方針になった。第四に26年1月に開催された鹿児島県小学校道徳教育研究大会出水大会における研究代表者の全体講演のなかでも紹介された。 本研究は,教師育成を目的とした授業デザイン開発研究である。そのため研究成果の発信は学会だけではなく,学校で実践している教諭に向けて行う必要がある。上記のように25年度の研究成果は,小学校の教師に向けて積極的に発信されたと言える。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究計画は以下のとおりである。第一に,抽象命題と具象命題の往還型授業デザインにもとづいた小学校中学年向けの検証授業を実施,分析を行う。この実施,分析により,本授業デザインは,小学校低,中,高学年の検証授業の実施と分析がそろう。これらの結果にもとづき,児童の思考力を伸ばす対話システムを取り入れた授業デザインモデルをまとめる。 また本研究で開発した第二の授業デザインである対概念を対比させる形の対話システムは今後,授業での活用を目的に,26年度に検証授業を実施し,デザインモデルとしてまとめる予定である。 研究成果の発信としては,すでに鹿児島大学教育学部代用附属鹿児島市立田上小学校の26年度研究公開(平成26年6月)および鹿児島大学教育学部附属小学校の研究公開(平成26年5月)において本研究成果を取り入れた授業が鹿児島県の小学校教員を対象に公開される予定である。同時に研究代表者が主催する小中学校教員を対象とした研究会でも報告する予定にしている。 さらに26年度は3年間の研究の最終年度になる。そこで3年間の論文をまとめた報告書を作成する予定である。この報告書は単なる論文集ではなく,小中学校の教員が実際に授業づくりの際に活用可能な内容にしていく予定である。 特に26年に新たに取り組む課題としては,この2年間の研究を通じて構想された,授業全体を一つの対話システムと捉える見方の理論構築を進めていく予定である。そしてこの対話システムのなかで児童がどのような論理様式を習得可能かという課題を立て,そのための新たな授業デザイン開発に取り組む予定である。
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