本研究は,道徳の時間での対話活動を取り上げ,対話をとおして児童が身に付ける力を定義したうえで,児童の対話活動時における教師の対話指導方法の開発を目的とした。研究は,研究代表者が小学校教師である研究協力者とともに,授業デザインを開発し,そのデザインにもとづく検証授業を小学校教師に実施してもらい,授業改善を行うという形式で実施された。 こうした研究から以下の諸実績を上げることができた。第一に,最適な対話展開が予測可能な対話課題を開発した。この対話展開に基づき,対話の洗練性を評価できる規準を作成した。従来,対話展開は自由度が高いため,その展開は予測しづらく,その結果,最適な対話展開の想定は困難であると考えられていた。しかし本研究により,特定の対話課題を用いることで最適な対話展開は予測可能であり,この最適な対話展開と実際の対話展開の乖離の程度によって,対話の洗練性を評価する方法が開発された。 第二に,小学校低学年での対話型授業デザインを開発し,検証授業をとおして,低学年での対話活動が実践可能であることを証明した。従来,小学校での対話活動は高学年が中心であったが,この研究をとおして低学年の授業へも対話導入が可能であることが明らかにされたと言えよう。具体的には,教師が児童同士の対話活動に参加する際,対話展開を深化させる機能をもつ教師発問を同定できたところに大きな成果があったと言える。対話展開を深化させる機能をもつ教師発問の同定は,高学年を対象としても行われた。高学年と低学年とでは,対話展開を深化させる機能をもった教師発問は異なることが明らかになった。これらの結果は,低学年と高学年への,教師発問をとおした対話指導方法の開発につながると言えよう。 本研究で開発された授業デザインは,経験が浅い教師でも活用可能である。よって,対話型授業に新しい実践スタイルをもたらすことが可能であろう。
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