研究課題/領域番号 |
24530879
|
研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
中原 睦美 鹿児島大学, 臨床心理学研究科, 教授 (80336990)
|
キーワード | 更年期 / 語り / 臨床心理学 / アイデンティティ / 質的研究 |
研究概要 |
本研究は、女性の健やかな生涯発達への心理支援を目的に、更年期をめぐる語り及び心理検査の分析を通して、更年期に特有の心理的葛藤を明らかにし、その心理支援の方向性を明らかにするものである。平成25年度は、大きく分けて二つの研究活動を実施した。 1.平成24年度に引き続き、更年期体験者及び更年期経験中の人を対象にインタビュー調査を行った。いずれも新規対象者で、鹿児島及び大分県にて計画通り、半構造化面接及び心理検査(クッパーマン更年期調査票、NEO-ffi、バウム、ロールシャッハ法)を実施し、結果分析まで終えた。今後もさらに対象者を増やす予定である。 2.学会発表を2件行った。まず、日本心理臨床学会第32回大会秋季大会にて「更年期をめぐる語りとその支援(1)-更年期経験者のインタビューを中心に」を口頭発表した。質的研究を行った結果として、①友人や知人がモデルとなり予測や覚悟に繋がっていた②必要な助言についてはNouthrop(2001)などの先行研究にある、更年期の捉え方と合致していたが、積極的な情報収集や受診行動は少なかった。③後続世代に貢献する意欲が高く、更年期受容抵抗は少なかった点について、「語りの様相」から分類した代表的な3事例について事例報告した。次いで、日本ロールシャッハ学会第17回大会にて「年期をめぐる語りとその支援(2)-更年期体験の受容とロールシャッハ・プロトコルの表れとして、インタビューやロールシャッハ法において対照的なパフォーマンスが見られた2事例に関する事例研究発表を行った。これは本人に了解を得て「ロールシャッハ法研究」誌に投稿し、審査中である。この研究過程で、対象群の呼称をより実態に合わせる目的で、「更年期経験者(含非経験者)」を「更年期通過群(含非経験者」に一部修正した。 上記に加えて、日本心理臨床学会誌「心理臨床学研究」に投稿すべく準備に着手した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、調査研究であるなかでも質的研究を主眼としている。計画当初は「更年期通過群(含非経験者)、更年期中群、更年期未経験群」各々20名程度の対象者を予定していた。しかしながら、対象者募集には多大な労力を割くも対象者を募れない研究困難さが露呈したという事実もある。平成25年度は鹿児島及び大分で調査研究を実施したが、広報した京都や福岡での対象者は得られず、平成25年度内までで30名が調査を終えた状態である。この点からは研究進捗の達成度は、「やや遅れている」という評価も否定できない。 他方、質的研究における適切な対象数という観点からは、60名は、量的分析と質的分析が中途半端に陥る危険があるとの研究助言を受け、各群の数ではなく「更年期をどう捉え・意味づけるか」という観点から各群10名を越えた時点で分析に入った。分析・まとめという観点からは、「更年期通過群」については、更年期の語りの特徴及び対照的なパフォーマンスが見られた事例についてのロールシャッハ法による分析という二つの面から二つの学会にて学会発表ができた。この2つの発表をもとに、同程度の対象が獲得できた「更年期中群」について、平成26年度の日本心理臨床学会第33回秋季大会にて「更年期をめぐる語りとその支援(3)-更年期中にある人の語りを中心に」の発表が決まっている。さらに、同じく3つの群のデータを用いて日本ロールシャッハ学会第18回大会にて「更年期をめぐる語りとその支援(4)」として、骨格内臓反応の意味について発表すべく、基礎データを検討し始めている。 以上を総合的に判断すると、現在までの達成度としては「おおむね順調に進展している」と判断された。とはいえ、本研究にて得られた結果や論点の信頼度を高め論点を深めるためにも対象者を増やすこと自体は重要であり、次年度に向けて、東京や久留米市などの協力者を募る作業に着手している。
|
今後の研究の推進方策 |
平成26度は、「更年期をめぐる語りとその支援」研究の最終年度となる。まとめの年であり、大きく3つの研究活動を推進する予定である。 1.学会発表:平成24年度及び平成26年度にインタビュー調査で得られたデータを元に2つの学会発表を行う。一つは、更年期経験中者の語りについて、その特徴を先の更年期通過群と比較しながらまとめたもので、日本心理臨床学会第33回秋季大会「更年期をめぐる語りとその支援(3)-更年期経験中者の語り」というタイトルで、ポスター発表を行うことが決定している。もう一つは、現在得られている対象者30名にさらに対象を追加できたものを加え、日本ロールシャッハ学会第18回大会にて「更年期をめぐる語りとその支援(4)-骨格内臓反応が産出される意味(仮)」を発表予定である。ここでは、本研究で骨格内臓反応が90%以上出現したことについてその意味について分析し、従来の否定的解釈だけでなく、身体への関心や経験値という点もある可能性について検討する予定である。 2.論文投稿:①平成24年度に日本心理臨床学会第32回秋季大会にて発表したものを「更年期をめぐる語りとその支援(1)-更年期通過者の語り」として投稿予定である。②平成26年度に発表予定である2件についても論文執筆に早めに着手し、いずれかを年度内に投稿予定である。 3.これらをもとに、本研究のまとめとして報告書を作成する。本研究は、更年期や更年期障害に関する正しい情報提供をすることも目的としており、紙媒体での報告書作成を予定している。さらに、科研費研究助成による研究終了後も、知見を深める目的で、本調査研究の同じ方法にて対象者を募集し、年度内にも引き続き研究データを蓄積していき、研究終了後も何らかの形で、学会発表など発信を続けられる基盤を作る予定である。
|
次年度の研究費の使用計画 |
本研究において、次年度使用額が生じた一番の要因は、対象者確保が困難であった点に尽きる。更年期という女性にとってデリケートな話題を取り上げるという本研究の性質上の特徴があり、研究推進上、最も懸念していた点である。平成24年度に講演会を開いて対象者を募ったが参加者は30名近くであったにもかかわらず協力者は2名に留まったことからも困難さが示唆される。他にも研究を理解してくれている複数の医師を通して協力者要請も行ったが、鹿児島県内・外ともにゼロに終わった。加えて、一人当たり1回3時間から4時間かかるインタビューや心理検査の実施という労力の問題から、対象者の層が家庭人としていずれも介護などで多忙な年代にあり、時間調整の理由で実施できなかった点もある。それでも、一人、二人のレベルからの対象者を募る工夫を行い、鹿児島、大分は総計13名に対して調査できた。次年度は、この点をさらに工夫していきたい。 次年度使用額が対象者確保の要因であることは明確である。平成26年度は最終年度であるが、現在、内諾が得られている久留米方面や、東京方面で対象者確保の方向性を探っている段階である。旅費等を調整しながら、調査データとして10名から15名程度の対象者への調査実施を実現したいと考えている。さらに、研究最終年度でもあり、研究のまとめの視点についても研究指導等も予定している。 以上のように、当初の3年分の計画では、平成26年度は人件費・謝金は50000円を計上していたが、次年度使用額を計画的に用いて、対象者への謝金や指導謝金に充てるなどの計画を立てている。ただし、県外実施が多くなると旅費等がかさむため、当初の計画との調整を図りながら、計画的な研究費の使用を行っていく予定である。
|