研究課題/領域番号 |
24530881
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
梶原 和美 鹿児島大学, 医歯(薬)学総合研究科, 准教授 (40243860)
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研究分担者 |
緒方 祐子 鹿児島大学, 医歯(薬)学総合研究科, 助教 (50549912)
中村 典史 鹿児島大学, 医歯(薬)学総合研究科, 教授 (60217875)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 臨床心理学 / 口唇口蓋裂 / 母子関係 / 心理的援助 |
研究概要 |
本研究の目的は,口唇口蓋裂(Cleft Lip and/or Palate; CLP)をもって生まれた子どもとその家族に対する有効な心理的援助を実現するための方法論を確立するために,母子間の相互作用に着目し,CLPに関わる心理的問題の発生と展開過程を明らかにすることである。本年度は以下の3点について検討した。 (1)言語聴覚士および口腔外科医師によって「心理的問題」の存在を疑われ,臨床心理士に面接を依頼された事例を対象として面接を実施し,母子間のコミュニケーションに問題が発生する契機を調査した。その結果,多くの事例において出生時に保護者が体験した心理的動揺や葛藤が未解決なままその後の関係性の発達を不安定にしていることが確認された。また母親が「子どもとのつきあい方がわからない」と訴える背景には,同年齢の他児や同胞との比較に基づく子どもの行動上の問題の拡大評価があると考えられた。 (2)思春期に社会的不適応を呈した事例では,口蓋裂による言語障害が仲間づくりを困難にしており,言語治療の重要性が再確認された。また家庭での言語訓練や口腔外科手術のための入院は子どもと親との関係に影響を与えており,特に入院という出来事を家族システムを変化させる機会として活用できる可能性が示唆された。 (3)母子相互作用の観察プログラムの作成にあたり,間主観的関係性を評価するための具体的視点をいかに設定するかに関して,研究会・ワークショップ等で情報収集と意見交換を行った。 本年度の成果は,CLPチーム医療のあり方に対して具体的な示唆を提供できるものである。得られた知見をもとに次年度は心理的問題のスクリーニング調査を実施し,他職種スタッフと問題を共有するための研修を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
目的①の母子関係に潜在する心理的問題の抽出に関しては,面接調査を通じて一定の成果を達成することはできた。しかしながら本年度の調査は「心理的問題」を呈した事例に限定されており,全般的な調査の実施には至らなかった。本年度検討した事項を整理したスクリーニング調査の実施が必須であり,これは次年度の第一の課題である。そのためにはCLP治療チームへの協力依頼と概要の説明を早急に行う必要がある。 目的②の母子相互作用の記録に関しては,研究法(量的研究/質的研究,観察調査の分析方法)を視野に入れながら調査項目を慎重に選定しているところである。また心理的問題を調査する際には細心の倫理的問題をクリアすることが必要とされる。そのため本年度は臨床疑問を研究計画の基本要素に転換する定式(PECOt)および量的心理学研究法のデザイン立案に関するトレーニングを受けるとともに臨床心理学の研究倫理に抵触する具体的問題事例を広く収集した。平成 26年度の第24回世界乳幼児精神保健学会世界大会での発表と討論を目指して,次年度は観察項目(試案)を決定し,データ収集を急ぐ必要がある。なお母子相互作用をビデオ録画するにあたっては観察方法の構造化(導入の手続きの一元化や記録機器の設定場所の確定)が必要であり,共同研究者だけでなく関係者全体への理解を得ることが喫緊の課題である。
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今後の研究の推進方策 |
本年度に引き続き,鹿児島大学医学部・歯学部附属病院CLP専門外来を受診した患児を対象に,研究の主旨を文書および口頭で説明し,同意が得られたことを確認した上で,治療に支障をきたさない範囲で以下の調査を実施する。なお,得られたデータは研究代表者・梶原が厳重に管理し,個人情報が決して漏れないようにする。調査が患者の心身に不必要な負担をかけ,治療の妨げになると判断される場合には,すみやかに中止する。 ① 母子関係に潜在する心理的問題の抽出:本年度得られた成果にもとづき,児がCLPであることに関する心理的ストレスの強さ,対処方略,ソーシャルサポートに関する質問票を作成し,CLP外来を受診した患者全員を対象に実施する。その結果を言語聴覚士および歯科担当医から得られた所見と照合し,心理的にハイリスクな母子を同定するための指標を探索する。得られた結果を日本口蓋裂学会および日本心理臨床学会において発表する。【質問票の作成:梶原,データの収集:梶原・緒方・中村,解析:梶原】 ② 母子相互作用の記録と解析:言語訓練を受ける母子を対象として,自由遊びの時間と言語訓練中のやりとりを録画する。ビデオカメラに記録された映像ファイルと音声ファイルをPCに取り込み,言語的・非言語的コミュニケーションの様態を探索敵に分析し,観察の視点を明確化した上で,研究デザインを決定し,結果を世界乳幼児精神保健学会で発表する。【観察調査の計画と結果の解析:梶原,データの記録:緒方】
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次年度の研究費の使用計画 |
物品費:母子相互作用における会話系列や非言語的行動を記録するための録画機器および遠隔制御が可能な装置を購入する。また音声・動画データ解析ソフトがMac仕様であるため,Apple社製パーソナルコンピュータを新規導入する。またスクリーニング調査に不安やストレスを評価する項目を含める予定であり,心理検査用紙の購入が必要である【梶原】 旅費:多職種連携チーム医療に現存する問題の解決およびコミュニケーション観察研究法に関する情報を収集するための国内旅費が必要である。また,本年度は12th International Congress on Cleft Lip/Palate and Related Craniofacial Anomaliesの開催年にあたり,世界の治療動向に関する情報を収集するための外国旅費が必要である。【国内旅費:梶原,外国旅費:緒方・中村】 謝金等:得られたデータの整理および入力に際して大学院生を雇用する予定である。 その他:研究成果の投稿料および別刷り印刷費が必要である。【梶原】
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