研究課題/領域番号 |
24530882
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研究機関 | 琉球大学 |
研究代表者 |
浦崎 武 琉球大学, 教育学部, 教授 (20331613)
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キーワード | 自己同一性の形成 / 関係発達的支援方法 / 他者との関係性 / 直観的心理化 / 自閉症スペクトラム障害 / 能動性と受動性 |
研究概要 |
「自分はどうみられているか」を問い、他者との違いが不安になる自閉症スペクトラム障害児の学齢期は発達的に重要な時期である。現在、彼らへの支援として社会適応のスキルの獲得を目的とする訓練は多く見られるが、障害の中核とされる「他者との関係性」の発達的課題を基盤とする「私とは何ものか」を問う、「自己同一性の形成」の解明に真正面から取り組んだ研究や学齢期の心理的安定を支援する方法の研究は極めて少ない。 5年間の研究では、「自己同一性の形成過程」の解明、「関係発達的支援」による学齢期の自閉症スペクトラム障害児への支援法や効果を詳細に検討し「学齢期の関係発達的支援法」の開発を目指している。5年間の研究計画のなかの2年間、平成24年度および平成25年度において、1.「他者との関係性の形成過程」を明らかにすること、2.「他者との関係性の変容過程の段階性」を明らかにすること、3.「他者との関係性の変容過程の段階性」について実践を通して確認した。 平成25年度の研究計画3.では、研究計画1.、2.をいかに実践として位置づけられるかが求められた。自閉症スペクトラム障害児・者への<向かう力>と<受け止める力>の<能動―受動>の相互性の重要性が実践を通して確認された。自閉症スぺクトラム障害児・者が他者に受け止めてもらう体験、他者が自閉症スペクトラム障害児・者に受け止めてもらう体験は、「誰かと何かを共有する」という他者との関わりの積み重ねから生じてくることが確認された。当事者が述べているように子どもたちの外側から見た言動ではなく、彼・彼女らの今、ここにある内側の体験に想いを巡らせて、支援・教育を実践していく姿勢が今、求められているとの考えに至った。実践を通して重要視してきたテーマについて、当事者の内側の体験の語りを参考にして<向かう力>と<受け止める力>、<能動―受動>の相互性に着目し実践を検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は研究計画1.「他者との関係性の形成過程」を明らかにする計画を進行させ、データを蓄積させることを平成24年度に引き続き行った。その蓄積したデータは「自閉症スペクトラム障害児の自己同一性の形成の解明」および「学齢期の関係発達的支援の開発」を目指すための分析データおよび実践を行う上での「基本姿勢の形成」のための実践に繋がる重要なデータとなると考えている。 本年度はさらに研究計画1.と同時進行で、研究計画2.では「他者との関係性の変容過程の段階性」を明らかにするための縦断的な継続的な変容過程を詳細に記述した。この研究計画2.は「他者との関係性の変容過程の段階性」を、実践を通して確認する研究計画3.の実践により導かれるものでもある。その段階性を他者との関係性の形成過程のどこに焦点を当てて捉えるかという視点が重要となる。 本年度の成果は、最終的な目的となる「自閉症スペクトラム障害児の自己同一性の形成過程」を解明することに結びつく、自閉症スペクトラム障害児のなかの<能動性>に着目することの重要性を確認することができたことである。 当初の計画通り、申請者が籍を置き、実践の場となっている大学の教育学部附属施設発達支援教育実践センターにおける支援教室、「トータル支援教室」および、愛知県や岐阜県の臨床実践の場を、本研究を実施するための拠点活動の場として継続的に活用できたこと、そのことにより自閉症スペクトラム障害児のなかの<能動性:実践の場では「向かう力」と呼ぶ)>に関する行動様式や行動特徴のデータを蓄積できたことは、当初の研究計画3.の「他者との関係性の変容過程の段階性」を、実践を通して確認するという研究のステージに順調に進んだと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後、支援計画1.および支援計画2.で検討した「段階性」について、「トータル支援教室」の集団支援および個別支援における実際の支援を継続することを通して確認する。研究の目的の二つの柱となる「自閉症スペクトラム障害児の自己同一性の解明」と「学齢期の関係発達的支援の開発」を連動させた実践研究による支援データを詳細に記述し、支援の効果を確認していく臨床的検討および考察が必要となる。また、臨床的に「関係発達的」な視点の研究成果を検証するためには、「間主観的」な質的データの蓄積および検討が求められる。 その際、愛知県や岐阜県の臨床ネットワークにおける実践事例のデータ、そのデータに基づく「自己同一性の解明」のための着眼点の情報収集、大学の教育学部附属施設発達支援教育実践センターにおける支援教室、「トータル支援教室」での実践および実践検討の場を、より一層研究を推進していく環境に整備していくことが求められる。 支援を受ける子どもたちに集団支援を行う担当支援者がつき、子どもにとっての必要性や意味のある遊びやアクティビティを行いながら、支援者がユニットとなって関係性を形成することで、研究目的3.「他者との関係性の変容過程の段階性」について実践を通して確認する。特に自閉症スペクトラム障害児のなかの実践の場で呼んでいる「向かう力(能動性)」の概念の整理および、その対概念として考えらえる「受け止める力(受動性)」を検討するとともに、その<能動性-受動性>に関する行動様式や行動特徴に着目したい。 今後、研究を推進するための実践研究を検討する機会を設定し、複数の専門家の参加のもと、支援の在り方を多面的に検討することが研究目標を達成していくためには重要である。
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