| 研究課題/領域番号 |
24530882
|
|---|
| 研究機関 | 琉球大学 |
|---|
研究代表者 |
浦崎 武 琉球大学, 教育学部, 教授 (20331613)
|
|---|
| 研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2017-03-31
|
| キーワード | 自己同一性の形成 / 関係発達的支援方法 / 他者との関係性 / 自閉症スペクトラム障害 / 能動性と受動性 |
|---|
| 研究実績の概要 |
「自分はどうみられているか」を問い、他者との違いが不安になる自閉症スペクトラム障害児の学齢期は発達的に重要な時期である。現在、彼らへの支援として社会適応のスキルの獲得を目的とするトレーニングは多く見られるが、障害の中核とされる「他者との関係性」の発達的課題を基盤とする「私とは何ものか」を問う、「自己同一性の形成」の解明に真正面から取り組んだ研究や学齢期の心理的安定を支援する方法の研究は極めて少ない。
5年間の研究では、「自己同一性の形成過程」の解明、「関係発達的支援」による学齢期の自閉症スペクトラム障害児への支援法や効果を詳細に検討し「学齢期の関係発達的支援法」の開発を目指している。５年間の研究計画のなかの３年間、平成２４年度および平成２６年度において、研究目的1.「他者との関係性の形成過程」を明らかにすること、研究目的2.「他者との関係性の変容過程の段階性」を明らかにすること、研究目的3.「他者との関係性の変容過程の段階性」について、大学や県外の地域の自閉症スペクトラム障害児への実践を通して確認してきた。
平成２５年度は＜向かう力＞と＜受け止める力＞、＜能動―受動＞の相互性に着目し「関係発達的支援法」の実践を検討した。さらに平成２６年度においては、大学の発達支援教育実践センターで開催している集団支援教室、「トータル支援教室」の集団の取り組みによる実践を通して検証していくことで、子どもたちが「生き生きと動き出す姿を見せる瞬間やその姿が現れる時期」に注目した。取り組みを続けていくと子どもたちが外のものや人へと積極的に関わっていく様が見られるようになっていく、その事象を「向かう力（能動性）」と捉え、今後の本研究において重要な着眼点として位置づけた。そして、実践を通して生じる「向かう力」と支援構造を関連づけて検討することの重要性を確認することができた。
|
| 現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成２６年度は研究目的2.「他者との関係性の変容過程の段階性」を明らかにするため、平成２５年度に引き続き縦断的な継続的な変容過程を詳細に記述した。この研究目的２．は「他者との関係性の変容過程の段階性」を、実践を通して確認する研究目的３．の実践により導かれるものでもある。その「段階性」を捉えるためには、他者との関係性の形成過程のどこに焦点を当てて捉えるかという視点が重要となる。平成２５年度において自閉症スペクトラム障害児の「能動性」に着目することの重要性を確認してきたが、平成２６年度、多様な支援の「場」における実践を通して「向かう力（能動性）」の具体的事象を抽出し、整理することができた。
そして「向かう力」が生じる要因として、「ともに楽しむこと」による「向かう力」の活性化、「集団の場で過ごすこと」による「向かう力」の醸成、「横並びの関係性」から育まれる「向かう力」の発生、＜向かう力＞に応じた＜柔軟な構造＞の形成等を検討することができた。その結果、「向かう力」に沿った「自然な展開」の尊重、「重要な他者との関係性」、「魅力のある企画」、「安心できる雰囲気」による自然な展開に「結果として生まれてくる向かう力」の重要性を確認することができた。
当初の計画通り、大学における支援教室、「トータル支援教室」および、愛知県の臨床実践の場、また野外活動等の「場」を継続的に活用できた。そして自閉症スペクトラム障害児の「向かう力」に関する行動様式や行動特徴等のデータを蓄積できた。研究目的３．の「他者との関係性の変容過程の段階性」を、実践を通して確認し、研究目的４.の「自己同一性の形成の過程」を捉えるための自閉症スペクトラム障害児への支援および支援データの収集を始めている。複数の専門家の参加のもと、検証するという研究のステージに順調に進んだと考えている。
|
| 今後の研究の推進方策 |
平成２４年度から平成２６年度までの研究目的1.「他者との関係性の形成過程」、研究目的2.「他者との関係性の変容過程の段階性」を明確にする整理作業を継続しながら、研究目的3.「他者との関係性の変容過程の段階性」について今までの支援を継続し、再検討を加えながら、自閉症スペクトラム障害児の障害特性の変容を整理する。上記のような実践と作業を通して研究目的4.「自己同一性の形成の過程」を捉える方針である。
検討すべき課題としては、研究の目的の二つの柱となる「自閉症スペクトラム障害児の自己同一性の解明」と「学齢期の関係発達的支援の開発」を連動させた実践研究による支援データを詳細に記述し、支援の効果を確認していく臨床的検討および考察が必要である。また、「関係発達的」な視点の研究成果を検証するためには、「間主観的」な質的データの蓄積および検討が求められる。
その際、愛知県や岐阜県の臨床ネットワークにおける実践事例のデータ、そのデータに基づく「自己同一性の解明」のための着眼点の情報収集、大学の発達支援教育実践センターで開催している集団支援教室、「トータル支援教室」での実践、学校内の教育実践、自然環境のなかの支援等、多様な支援の「場」において実践におけるデータを収集する必要があり、より一層、研究を推進していく環境を整備したい。
平成２７年度は、研究目的３．「他者との関係性の変容過程の段階性」について長期的実践、および継続的検証、成果を確認ながら、研究目的４.の「自己同一性の形成の過程」を捉えるための、自閉症スペクトラム障害児の支援および支援のデータの収集を行う。今後、今までと同様に研究を推進するための実践研究を検討する機会を設定し、複数の専門家の参加のもと、「他者との関係性の変容の過程」、「自己同一性の形成の過程」、「学齢期の関係発達的支援」等の在り方を多面的に検討する計画である。
|
