研究課題/領域番号 |
24530885
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研究機関 | 宮城学院女子大学 |
研究代表者 |
足立 智昭 宮城学院女子大学, 学芸学部, 教授 (30184188)
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研究分担者 |
伊藤 雄一 大阪大学, 情報科学研究科, 准教授 (40359857)
金高 弘恭 東北大学, 歯学研究科(研究院), 准教授 (50292222)
北村 喜文 東北大学, 電気通信研究所, 教授 (80294023)
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キーワード | 積み木 / 遊戯療法 / 唾液アミラーゼ / ストレス / 東日本大震災 / 幼児 / 加速度センター |
研究概要 |
【目的】本報告では、幼児の積み木遊びによるストレス軽減効果の基礎的データを得るため、(1)加速度センサーを内蔵した積み木の操作性と動作性、(2)生理、心理、行動指標による測定可能性について検討を行うことを目的とした。 【方法】(1)対象児:2歳8ヶ月から6歳6ヶ月までの幼児50名。 (2)手続き:対象児は、積み木で約 20 分自由に遊んだ。また、積み木遊びの前後に、唾液アミラーゼ活性値(以下sAMYと略す/単位kU/l)、VAS (Visual Analogue Scale)による不安レベル、OSBD(Observation Scale of Behavioral Distress)による抑うつ行動レベルを測定。 (3)積み木:加速度センサーを実装した5cm×5cm×2.5cm の積み木6個、10cm×5cm×2.5cm の積み木6個。 【結果】(1)sAMYが大幅(-0.5相対標準偏差値)に下降した対象児は、集中して積み木遊びをしたのに対して、sAMYが大幅(+0.5相対標準偏差値)に上昇した対象児は、集中して積み木遊びができなかった(Fisher‘s exact test, p<.01)。(2)VASの値は、4名の対象児を除き積み木遊びの後下降した。(3)OSBDの値は、積み木遊びの後、値が上昇した対象児はいなかった (4)迷いながら自分のイメージに近い構造物を作ろうとした対象児のsAMYは、下降する傾向にあった。 【考察】加速度センターを内蔵した積み木は、2,3歳児でも、十分に片手で操作できるものであった。また、積み木遊びに集中していた対象児は、自分のイメージに即した構造物を作るために、試行錯誤を行い、積み木が崩れても何度もトライする姿が見られた。明確にsAMYが下降した対象児は相対的に少なかったものの、積み木遊びへの集中が、ストレス軽減効果をもつことが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究においては、実験群として、(1)東日本大震災において被災した幼児、(2)慢性的にストレスが高いと想定される治療前の口唇裂口蓋裂の幼児(痛みを伴う矯正治療を行う)、および対照群として、(3)慢性的なストレスを経験していない一般の幼児を対象とした。しかし、(2)の口唇裂口蓋裂の幼児については、患児の体調によりスケジュール変更が多く、当初予定していた人数のデータが得られなかった。患児は体調を崩しやすく、やむを得ない事情ではあるが、26年度は、これらの不足するデータを補う予定である。 また、積み木に実装された加速度センサーの値の分析は、まだ十分に行われていない。データをグラフ化し、定性的に幼児の積み木操作の分析を行うことはできたが、その分析を自動的に行うアルゴリズムの開発は、今後の課題として残された。加速度センサーのデータは膨大な量となっており、すべてのデータを処理することは、時間的にも、人的にもロスが多い。対象児が特徴的な積み木の操作をした際のデータを抽出して分析することも、一つの方法として考えられる。 その他、東日本大震災から3年が経過し、震災のことを記憶している幼児が少なくなっているのが現状である。倫理的な側面からも、無理にこれらの幼児に研究への参加の依頼をすることも困難となっており、今後は、上記の慢性的なストレスを被っている口唇裂口蓋裂の幼児のデータを増やすことで、本研究の目的を達成する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、本研究課題の最後の年度となる。前項の「現在までの達成度」の課題と重複するが、慢性的ストレスを被っている幼児のデータをさらに補うと共に、積み木に実装された加速度センサーによって得られたデータを分析するアルゴリズムを開発することが大きな課題となる。 そのために、前者の課題については、慢性的なストレスを被っている口唇裂口蓋裂の幼児の受診が多い夏休みに集中してデータを得る予定である。そのためには、平成26年4月より、東北大学病院の協力を得て、患児の受診を夏休みに集中するように働きかけている。また、後者の加速度センサーの結果の分析については、東北大学電気通信研究所の大学院生の協力を得て、これについても集中的に解析プログラムを開発する予定である。 さらに、これらの研究結果の解釈においては、積み木を利用した遊戯療法の専門家の助言も必要で有り、国内外の専門家と研究会を開催し、議論を深める予定である。 幸い、加速度センサーを内蔵した本研究課題の積み木は、遊びながら幼児のストレスを軽減し、その遊びの過程を加速度センサーにより自動的に記述することができることから(インタラクティブツール)、海外の玩具メーカーが関心を抱いており、今後、これらのメーカーとの共同開発を行う可能性も出てきている。 なお、これまでの研究結果を、日本発達心理学会、国際力道性心理療法学会、情報処理学会などの学会で発表すると共に、発達科学研究誌、Tohoku Psychologica Folia誌などの専門誌にその成果を投稿する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
主として、共同研究者の金高弘泰氏が、物品費として計上していた100,000円の未使用により、次年度使用額が生じた。これは、金高氏が所属する東北大学大学院歯学研究科における口唇裂口蓋裂の幼児を対象とした実験が予定通りに行われなかった事による。本来であれば、幼児の積み木実験の記録を取るために、ビデオ録画するはずであったが、それらの費用が未使用となった。 今年度は、未使用となった物品費を使用し、東北大学病院における口唇裂口蓋裂の幼児の積み木遊びの記録のために、ビデオ録画のためのSDカードの購入などに使用する予定である。
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