研究課題/領域番号 |
24530906
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
川端 康弘 北海道大学, 文学研究科, 教授 (30260392)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 高次視覚 / 色覚 / 色認知 / シーン再認 / 空間周波数 / ローパスフィルタ / ハイパスフィルタ / fMRI |
研究概要 |
高次視覚システムの中で機能する色認知システムの特性を研究するには、過去の視覚初期過程の特徴抽出の研究の場合と同様に、その時空間特性(すなわち周波数特性が低域通過型で低分解能である)を考慮する必要がある。初期過程の先駆的研究が色情報の寄与を低く見積もったのは、この特性を考慮しなかったためである。最近の高次色認知研究にもその傾向があり、結果の多くで色の寄与は低い。そこで本研究では、色の特性に適した大局的な時空間配置を用いて高次色覚認知に関する心理学的実験を行い、色の寄与を明確にする。また現在、色の時空間特性は、色覚の初期過程に関する生理学的知見と一致しないため、fMRIによる脳機能画像計測を併用することで、色の時空間特性の脳内基盤を同定する。また我々の予備的研究から、高次の色認知には個人差が顕著にみられるため、職業や趣味を通して色との関連が深い人に参加いただき、色認識能力と脳機能画像解析の結果から、高次色処理と個人差についても検討する予定である。 平成24年度はまずシーンの再認における色布置の効果について実験的検討を行った。日常的なシーンには、様々な時空間的スケールの情報が含まれている。ただ色と輝度を検知するシステムは、同じスケールに同調しているとは限らない。大局的な構造には色が、局所的で詳細な部分には輝度の手がかりが有効とも言える。カラー画像80枚ほど提示して、その後に新規画像を加えた160枚の刺激に対し再認判断を行った。その際、ローパス(ハイパス)フィルタを用い、カットオフ空間周波数を連続的に変えることで、再認刺激の局所的な詳細情報や大局情報の量を調節した。その結果、色と大局的構造、輝度と局所的詳細の間に相互作用が見られた。またこの行動実験の結果をふまえ、一部の参加者に対してfMRIによる脳画像計測を開始した。現在データ収集と解析を順次行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度に行ったシーン再認に関する実験では、大局的な空間構造に色情報が布置されたとき、および局所的詳細に輝度情報があるとき再認成績が良く、空間構造と色(輝度)情報の間に明確な相互作用が見られた。心理学的行動実験としては十分な参加者数であるため、この実験の信頼性は比較的高いと言える。上で述べた我々の仮説を支持する証拠の1つとして位置づけることができるだろう。また上記の行動実験の結果をふまえ、この認知機能に関わる大脳皮質部位の活性領域が、1次視覚野や初期の色覚部位からV4, IT野を含む腹側系皮質の各部位へ向かう高次の色処理の流れの中に認められる可能性が高いため、fMRIによる脳機能計測を開始するめどがたち、実際に前年度末からfMRIを開始した。これまでのところほぼ当初の計画通り研究は進捗しており、上述した理由から、全体のおよそ4割程度を実施したと言える。
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今後の研究の推進方策 |
25年度は個人差の検討を中心にいくつかの行動実験を行う。まずシーン再認について、デッサン熟達者と一般の大学生の結果と比較する。予備実験では、有意にデッサン熟達者の方が記憶成績の良く、一般学生に比べて色の手がかりをより有効に利用していることが示唆されたので、その点をうまく取り出せるよう、前年度構築した刺激呈示システムを利用して実験を実施する。彼らは写生等の特殊な訓練を多く積んでおり、シーンの把握においても、ある種の洗練された方略を持つのかもしれない。またもう1つの群として、色覚健常者の他に2色型色覚の参加者にも加わってもらう。彼らは生まれつき色彩が制限された視覚を持つが、そのハンディを色によらない手がかりを用いることで克服しているかもしれない。実際かれらが健常者にはない特性をこれまでの視覚体験から生み出していることを示唆する知見では、彼らが白黒とグレイスケールの階調を健常者に比べ多く持つことが示されている。本研究でも彼らが輝度コントラストの認知において健常者とは異なる特性を見せる可能性がある。 また最近の物体色に関する研究でも色の効果は低いため、CB(変化の見落とし)研究や、シーンの意味や要点(gist)把握の研究についても、着色する物体の面積を連続的に変えたり、あるいはシーンの空間構造を色(あるいは輝度)の特性に同調させることで、やはり色や輝度の寄与率が変わる可能性を探る。過去の実験画像を利用するために、一般家庭の仮想室内空間や森の中での山菜とり場面を使って、画像内の物体の微妙な色の識別や同定を行う。また、個人差場面での能力比較を行うため、一般の大学生の群に対して、前者では前出のデッサン熟達者に引き続き参加いただく。また後者では山菜とり名人の方(予備的実験の結果、識別・同定力は大学生に比べ高い)に協力いただき実験を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究を実施するために必要な研究施設・設備・資料に関しては、多くのものが当研究機関の研究代表者が所属する部局で調達可能であり、実際これまでに多くの予備的実験を行ってきた。ただし刺激呈示環境を改善する必要があるため、現有設備を利用・点検しつつ、平成24年度の研究費は主にその改善のために使用された。それ以外の主な研究費として、fMRIの利用料と協力者に支払う謝金を計上していた。fMRIに関しては本学医学研究科が保有し、申請者は脳科学教育研究センターの基幹教員も兼務しており、事前に医学研究科のfMRI施設を利用する許可を得ていた(ただし使用料や維持費の一部を支払う必要はある)。平成24年度は、fMRI計測を始める前提となる行動実験のデータ収集がまず優先されたが、この完了がやや遅れたために、fMRI実験の開始が2月後半となり、結果して上記施設の利用は年度をまたぐことになった。したがって未使用の予算については次年度に支出する予定である。
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