研究課題/領域番号 |
24530911
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研究機関 | 東京学芸大学 |
研究代表者 |
関口 貴裕 東京学芸大学, 教育学部, 准教授 (90334458)
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キーワード | 無意図的想起 / マインドワンダリング / 不随意記憶 / メタ認知 / モニタリング / ワーキングメモリ / 実行機能 |
研究概要 |
平成25年度は,以下の3つの検討を行った。 1.無意図的思考の気づきをもたらすメタ認知機構の検討: 無意図的思考(マインドワンダリング)の気づきをもたらす仕組みには,自らの意識状態に対する能動的なモニタリングと外的刺激の入力をきっかけとした受動的なモニタリングの2種類が想定されている(Schooler et al, 2011)。これを受け本年度は,後者のタイプのモニタリングについてその実在性を検討した。課題中の無意図的思考を自己補足する手法を用いた実験の結果,外的刺激(視覚キュー)の呈示後には,それがない場合に比べ無意図的思考の報告数が増えること,および視覚キューが閾下で呈示された場合でも同様の効果が見られることが見いだされた。この結果から無意図的思考が前意識的な注意定位の働きを介して受動的に検知されることが示唆された。 2.無意図的思考の生起に関わる認知能力の検討: 無意図的思考生起に関わる認知能力を検討するために,個人差アプローチにより無意図的思考傾向と1)ワーキングメモリ,2)課題切り替え,3)抑制,4)順向干渉耐性の各能力との関係を調べた。具体的には,4つの能力に対応した課題を各3種類作成し,それぞれの課題の成績と無意図的思考傾向との一次相関を調べた。その結果,無意図的思考傾向の高い人は,ワーキングメモリ能力が高く,また順向干渉への耐性が低いことが見出された。さらに,これら2つの能力に焦点を絞り検討を行ったところ,無意図的思考傾向はワーキングメモリ能力とのみ正の相関を示し,ワーキングメモリの能力が無意図的思考の基盤であることが示唆された。 3.無意図的想起のメカニズムを実験的に検討するための方法論の検討: 実験室において過去の出来事を無意図的に想起させるための手法として,参加者になじみのある風景の写真をキューとして用いる方法について,その有効性の検討を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請書に記載した研究のうち,「無意図的思考の気づきをもたらすメタ認知機構の検討」については,計画通り実験を行い,外的刺激による受動的なモニタリングの仕組みに関しこれまでにない知見を得ることができた。この研究については今後,外的刺激の入力が具体的にどのようなプロセスをへて無意図的思考の気づきに繋がるのかを検証する実験を行い,その成果を平成26年度中に論文化する予定である。 また,交付申請書に記載した研究「無意図的思考の生起に関わる認知能力の検討」については,計画では100名程度の参加者を対象にデータをとる予定であったが,本年度は,40名程度の参加者に対する検討に留まった。しかしながら,この研究で無意図的思考傾向とワーキングメモリ能力との関係が確認できたため,次年度の研究で詳しく検討する認知能力を明確化することができた。 一方,3つめの研究である「無意図的想起の生起メカニズムに関する検討」は,ようやく方法論が確立できた段階であり,上記2つの研究に比べると遅れている。最終年度である次年度では,こちらの研究の遂行を加速させる必要がある。 以上より,平成25年度の研究は「おおむね順調に進展している」と自己評価した。
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今後の研究の推進方策 |
平成24・25年度の研究成果を踏まえ,平成26年度は以下の研究を行い,無意図的思考・想起の生起メカニズムおよびそのメタ認知の仕組みを明らかにする。 1.無意図的思考の気づきをもたらすメタ認知機構の検討: 無意図的思考の気づきに対する前意識的な注意定位の働きについて,それを確認する実験を行う。 2.無意図的思考の生起に関わる認知能力の検討: 無意図的思考の生起とワーキングメモリ能力との関係について詳細な検討を行う。具体的には,ワーキングメモリの言語的な成分,視空間的な成分それぞれの働きと無意図的思考との関係を二重課題法,および個人差アプローチにより検討する。 3.無意図的想起の生起メカニズムの検討: 参加者になじみのある風景写真を想起キューとして呈示することで過去の出来事の無意図的想起を促す手続きを用い,無意図的想起に関わる認知能力の個人差アプローチによる検討,ならびに無意図的に想起される出来事の特性の検討を行う。そして,それらを通じて無意図的想起の生起メカニズムを明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度に行った研究「無意図的思考の生起に関わる認知能力の検討」において,当初,100名程度の実験参加者に謝金を支払う予定であったが,実際には40名程度の参加者に対する検討に留まったため,主に謝金として使用予定であった約250,000円が次年度に繰り越しとなった。 次年度は,本課題の最終年度となるため研究成果のアウトプット(学会発表旅費:800,000円,論文校閲費:約150,000円)に研究費の多くを使用する他,残された研究課題の実施に約300,000円(主に参加者謝金,消耗品購入)を使用する計画である。
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