平成27年度の成果: 平成27年度は,ワーキングメモリ(WM)能力が無意図的思考にあたえる影響を量的・時間的側面から検討する実験を行った。具体的には,無意図的思考の有無を課題開始から15,30,45,60秒後の4時点で測定し,各時点における無意図的思考生起率をWM能力高群と低群とで比較した。その結果,WM能力低群は高群に比べ,15秒後の時点で既により多く無意図的思考を生起させていることが見いだされ,WM能力が課題開始後の早期から無意図的思考の生起に影響していることが明らかとなった。 研究期間全体を通じての成果: 本研究課題の目的は,意図せずに生じる心の働きである無意図的思考と無意図的想起について,その生起と気づき(メタ認知)に関わる認知メカニズムを明らかにすることであった。主な成果は以下の通りであり,これにより従来の認知心理学研究では明らかでなかった無意図的思考・想起の制御メカニズムに関し,多くの基礎となる知見を得ることが出来た。 ・無意図的思考の生起に関わる認知能力・メカニズム:1)無意図的思考の生起には,実行機能を構成する力うちWM能力が関係する。一方,抑制,課題切り替え能力の影響は見られない。2)WM能力は課題開始15秒後の時点で既に無意図的思考の生起に影響している。3)無意図的思考は音韻的短期記憶の働きを通じて意識に広がる。 ・無意図的思考の気づきをもたらすメタ認知機構:1)無意図的思考への能動的な気づきは注意資源を要しないプロセスで行われている。2)無意図的思考への受動的な気づきは,前意識的な注意定位の働きを介して行われる。 ・自伝的記憶の無意図的想起の特徴:1)自伝的記憶の無意図的想起は,現在の自己に注意を向けることで起こりやすくなる。2)無意図的想起は,特定性の高い単語の提示により意図的想起と同程度に生起するものであり,両想起形態には同じメカニズムが関与する。
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