研究課題/領域番号 |
24530915
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
朴 白順 京都大学, 人間・環境学研究科(研究院), 研究員 (50623550)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 神経心理学 |
研究概要 |
日常のあらゆる活動を支えるヒト記憶の脳内機構の解明は,私たちの生活の質的向上に重要である.本研究の目的は,大脳疾患を有する症例を対象とした,ヒトの記憶,特に,エピソード記憶(生活記憶とも言う)の①本質的,②相互作用的視点に立った脳内機構の解明にあった.①の本質的アプローチでは,エピソード記憶を想起する際の想起特性を,また②の相互作用的アプローチでは,エピソード記憶の想起に促進的な影響を及ぼす要因を解明し,①,②の脳内機構を明らかにすることが研究の内容であった. 私たちが行った①の健忘症3例における自伝的記憶(エピソード記憶)の再生課題では,再生された自伝的出来事ごとに,15項目(7件法)で構成された質問紙を実施し,記憶がどのように想起されたのかを評定するものであった.結果,健常者と比較して健忘症例では,記憶再生における量的な低下がみられ,また同時に,質的違いも示された.健常者では,「記憶への信念」,「視覚イメージなどのさまざまな感覚処理」,および「出来事が持つ特性」(15項目はこの3つのグループ分けが可能)の3つの項目グループ間で高い相関を示したが,健忘症例では部分的にのみ相関を示した.健常者とのこのような違いが脳のどの領域と関連するのか,今後さらなる検討が必要となった.また,私たちが行った②の記憶に促進的な影響を及ぼす要因(従来,情動処理や意味処理)の予備的検討では,情動システムが障害されているパーキンソン病例を対象に実験を行った.結果,パーキンソン病例では,学習段階での情動判断(処理)がその後の記憶成績の促進にはつながらず,このことにおいて,情動システムを担う前頭-扁桃体領域の重要性が示唆された.当該年度に得られた結果は,今後も引き続き,本研究目的に沿った研究を進めるにあたり,その礎になると考えられた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は,さまざまな脳領域に大脳疾患を有する症例を対象としている.対象症例は,健忘症例,依存症例,自閉症例,パーキンソン病例,意味性認知症例である.特に,健忘症例,自閉症例,意味性認知症例における患者選定が遅れている(症例が不足しているため).このことによって,計画遂行に遅れが出ている.
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今後の研究の推進方策 |
次年度は,第一に,本質的アプローチにおける健忘症例,自閉症例への計画遂行が急がれる.健忘症例については,引き続き,研究協力機関である,京都大学病院精神科神経科,および洛和会音羽病院への最大限の協力を求め,それでも難航する場合,研究協力病院が関連する他の病院機関への協力を要請する予定である.また,自閉症例については,京都大学病院精神科神経科発達専門外来医との間で,症例の選定についての協議は数回行ってはいるが,年齢や障害度などの選定において難航している.引き続き,協議を重ね,速やかに実施する予定である.第二に,相互作用的アプローチにおける意味性認知症例については,上記同様,協力病院への最大限の協力を求めるとともに,その他の病院機関への協力を要請する予定である.
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次年度の研究費の使用計画 |
当該年度は,上述したように,3症例に対する計画が遂行されなかったため,次年度に使用する研究費が発生したと言える.よって,次年度には,遂行がやや遅れている計画を実施することによって,謝金,物品費(実験遂行のための資料や物品購入),旅費(成果発信のための活動)などの使用にあてることとなる.上述以外の研究に変更はなく,本来の計画通り遂行する予定である.
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