本研究課題の目的は、大脳疾患を有するさまざまな症例(健忘症例、自閉症例、依存症例、パーキンソン病例)を対象とした、1)本質的アプローチ(エピソード記憶の想起特性を中心とした検討)、2)相互作用的アプローチ(エピソード記憶想起に促進的な影響を与える要因の検討)による、エピソード記憶機能の脳内機構の解明にあった。本研究課題遂行最終年にあたる平成26年度には、25年度の計画で遅れがでていた以下の内容が遂行された。 1)本質的アプローチによる健忘症例を対象とした検討では、健常者における過去14年間の自伝的記憶再生時の特性が示唆された。「その出来事は何年前にあったのか」との記憶中の時間の想起には、その出来事の記憶情報への、確信度、鮮明度、情動的強さ、個人的重要度、および繰り返し度がそれぞれ関与していることが示された。出来事が生起した時間の記憶の想起と、このことに影響を及ぼす複数要因の詳細な検討は今日までほとんどなされていなことから、本研究の意義は大きい。 1)本質的アプローチによる自閉症を対象とした検討では、時間や順序の記憶と、より短い時間の知覚(30,60、90秒)の関連性を調べた。データは患者群、健常群それぞれ10名程度取得済みであるが、現段階では、患者群特異的な傾向を見いだせていない。さらなるデータの取得によって患者群の特異性を解明する。 3年間の研究を通して以下の内容を得ることができた。①健忘症例では、自伝的記憶の想起の特性が健常者とは異なる(鮮明度が伴わない)可能性、②パーキンソン病例では、記銘時の情動的処理や意味的処理による記憶の促進がみられないこと、③健忘症例でみられた作話現象は、注意機能や長期記憶成績の低下と関連すること、④健常者における自伝的記憶の時間の想起には、記憶情報そのものへの確信度や鮮明度などの要因が関連すること、などが示された。
|