本研究は,これまであまり研究の進展が認められなかったヒト検出過程の特性について明確にすることを目的とした。初年度(2012年)は,様々な自然なシーンの中のヒトを検出することを実験参加者に課し,検出に要する時間を計測した。その結果,顔が見えない条件でもヒト検出が非常に早く,顔以外の手がかりもヒト検出に用いられていることが示唆された。さらに,近距離の明るいシーンでは正面向きが,シルエットでは横顔が早く検出されるが,その効果は遠距離になると弱まり,顔手がかりの重要性が観察距離によって変化することが示唆された。 次年度(2013年)は,特に顔検出に利用される空間周波数成分を明らかにするために,刺激写真にローパスフィルターをかけた刺激から徐々に高周波成分を含む刺激を提示し,それらにヒトが含まれるかどうかの判断を実験参加者に課した。実験の結果,顔の検出閾は6c/fh(顔の長さを基準とした空間周波数)以下になり,顔認識に重要とされる空間周波数成分(8-11c/fh)よりも顔検出はより低い空間周波数成分で可能なことが示された。さらに,ヒト検出閾が白黒よりもカラーの方が低いことや,明るい照明条件での正面顔の優位性が示され,ヒト検出の手がかりとして色情報や顔情報が重要なことが示唆された。 最終年度(2014年)は,これまでの研究成果を確固としたものにするための研究を行った。まず,初年度の研究結果が遠距離になって顔の大きさが小さくなるために得られたのではなく,遠距離になると身体部位の手がかりとしての重要性が増すためであることを確かめた。さらに2013年度の実験手続きの不備を改良した上で同様の実験を行った結果,ほぼ一貫した結果が得られた。その上,正面顔と横向きのみでカラー写真の優位性が認められ,顔の肌色が顔検出の手がかりとして有効なことが示唆された。
|