研究課題/領域番号 |
24530917
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
研究機関 | 東北文化学園大学 |
研究代表者 |
佐藤 俊彦 東北文化学園大学, 健康社会システム研究科, 准教授 (20322612)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | SHR / WKY / ラット / 遅延場所照合課題 / 5選択反応時間課題 / オペラント条件づけ / 記憶 / 注意 |
研究概要 |
今年度購入した米国MED社の機器を利用し、SHRおよびWKYラットを用いて、遅延場所照合課題(Delayed-matching-to-position task, DMTP)と、5選択反応時間課題(5-choice serial reaction time task, 5CSRT)を実施した。DMTP課題のシェイピングの手続きには、自己反応形成課題(Autoshaping)と、連続強化および定率強化スケジュール課題を含めた。当初の計画に従い、今年度の実験では、投薬は行わずに行動測定を行い、これらのラット系統の特徴を明らかにしようと試みた。Wistar系ラットを用いた実験を先行して実施し、訓練手続きの確認と、予備的なデータ収集を行った。 5CSRT課題の系統間の差としては、シェイピング初期の比較的易しい課題では、WKYのほうが比較的良好な成績を示した。これに対して、後半の比較的難しい課題では、SHRの成績が比較的良好となり、特に、正解の手がかりとなる光刺激の持続が0.5秒と短く、難度の高い条件で高い正答率を示すのはSHRの個体だけであった。 次いで、DMTP課題については、WKYの成績のほうが全般的に良好であった。DMTPに先行して行った自己反応形成課題で、SHRとWKYとの間に顕著な違いを認めた。この課題では、餌皿とは反対側(餌皿に向かって背中側)の壁に設置されたレバーを押す頻度に関して、SHRとWKYに顕著な違いがみられた。すなわち、SHRがほとんどレバー押し反応を示さなかったのに対して、WKYは4匹中3匹が高い頻度でレバー押し反応を示した。それに続く定率強化スケジュールのセッションでも、WKYは比較的高い頻度でレバー押し反応を示した。シェイピング訓練におけるWKYのレバー押し回数の水準が多くなっていたことで、後続するDMTP課題の成績に影響を与えた可能性がある。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実験機材の納品が、海外メーカーから日本の代理店を経由することとなり、発注から納期までに3か月以上かかったため、実験の開始が平成24年12月にずれこんだものの、それから現在に至るまで、鋭意、実験データ収集を進めており、25年5月には予定していた実験を完了できる見込みである。5CSRT課題については、シェイピングのセッションを含めて、4月末現在で80セッション程度(1日あたり1セッション実施)であり、80セッションを目安としてトレーニングを終了する計画である。DMTP課題については、4月末現在で、多くの個体でシェイピングのセッションを終えて、3つのレバーを用いたDMTPセッションに移行している。30セッション程度を目途にDMTPの訓練を終了する予定である。
|
今後の研究の推進方策 |
平成25年度以後も、当初の計画に従い、研究を進める予定である。自律神経系や循環器系の機能と、記憶や注意、衝動性といった認知行動的特性との関係性を明らかにする。これまでの研究より、本態性高血圧の動物モデルであるラット(SHR)の血圧を薬理的に操作すると、恐怖に関連した情動反応が小さくなることを見出した。ここで問題として残るのは、情動行動は通常に近づくことが分かった一方で、認知機能がどう変わったかが分からないという点である。本研究では、血圧が低下したときのラットの認知行動的機能の指標を、オペラント条件づけのパラダイムを利用して定量的な測定を行う。SHRは注意欠陥多動性障害(ADHD)の動物モデルでもあると考えられており、本研究における注意機能や衝動性の検討結果は、ADHDのモデルとしての有用性の検討に役立つだけでなく、不注意や衝動性といった問題の生理学的背景を理解するうえでも重要な情報を与えてくれるものと期待する。 平成24年度に実施した投薬を行わないラットの実験成績から、注意機能と衝動性を調べる5CSRT課題と短期記憶を調べるDMTP課題の実施に先立つシェイピングの手続きの詳細を決定する。また、平成24年度に行った自己反応形成課題の実験では、SHRとWKYの成績に大きな違いを認めた。このような行動の系統差は、両系統のラットの間で、オペラント条件づけの基本的性質の違いを反映していると考えられるので、当初の研究計画に加えて、自己反応形成の課題場面における訓練条件として、餌皿とレバーの間の距離などの条件を複数設定しながら、系統差が大きく表れやすい条件を探し、SHRの行動表出の基礎にある学習・記憶または動機づけ機能の特徴を解明していきたい。 研究成果の報告についても精力的に行いたい。研究の途中経過に関して、国内外で学会発表を行い、成果がまとまった折には論文発表を計画したい。
|
次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度には、比較的高用量の血管拡張薬ヒドララジンを投与して、血圧を健常域まで降下させたSHRのDMTP課題の成績を調べて、血圧低下後のSHRの短期記憶の変化を明らかにする。ここでは平成24年度に購入したオペラント実験システムを使用する。このシステムにオプションの追加購入(DMTP課題制御用ソフトウェアと、餌皿に頭部を差し入れたことを検出する光学センサ)を行う予定であり、これにより課題の成績評価の精度を高め、海外でも広く行われているプロトコルと同様の実験を実現できる。実験の手順の概略は次の通り:1)SHRの投薬群と統制群について、薬物投与の前日までに、DMTP課題に関して80%以上の正答率が得られるように、事前にシェイピングなどの訓練を行う。2)薬物投与を行う当日は、最初に、静脈内への薬物投与を行う。平成25年度には、動脈血管を拡張させて血圧を低下させる血管拡張薬ヒドララジンを0.6 mg/kgの高用量でSHRに投与する。統制群には溶媒のみ(生理食塩水1.0 ml/kg)を投与する。なお、26年度には、低用量のヒドララジン投与(0.1 mg/kg)を行って、比較的小さな血圧低下がDMTP課題の成績に及ぼす効果を検証する。3)非観血式血圧計(現有機器)による血圧測定を行い、血圧低下を確認する。4)DMTP課題を実施し、血圧低下が短期記憶に与える影響を調べる。 また、当初の計画に追加する事項として、昨年度見出された自己反応形成におけるSHRとWKYの際立った系統差について、引き続き実験的検討を行う。 平成25年度中の研究成果発表の機会として、平成25年9月の日本動物心理学会大会と、同年11月の北米神経科学会における研究発表を行う予定であり、これらの学会に参加するための旅費を使用する計画である。
|