研究課題/領域番号 |
24530918
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研究機関 | 埼玉医科大学 |
研究代表者 |
菅 理江 埼玉医科大学, 医学部, 助教 (10342685)
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キーワード | 刻印づけ / 記憶 / 学習 / 国際研究者交流 / イギリス |
研究概要 |
ヒヨコの刻印づけを用いた初期学習における記憶の脳内表象と干渉のメカニズムの解明が本研究の目的である。実験では孵化後48時間のヒヨコに対し、人工刺激(内部照明付き、訓練中は回転)を一定時間提示することを学習訓練とした。刺激に対する学習強度は訓練後、訓練刺激と新奇刺激を交互にヒヨコに提示し、訓練刺激に対するヒヨコのアプローチを全アプローチに対する割合で示す。刻印づけに必須な脳部位intermediate and medial mesopallium(IMM)においては学習後の決まったタイミングで神経細胞の活性に変化が起こることが知られており、マーカーの一つである即初期遺伝子c-fosを用いて、訓練刺激の脳内表象を検討する。25年度は前年度の成果をもとにより詳細な結果の検討と、解析プロトコルの確立を計画していた。 1. 記憶固定化に関連する神経細胞の活性:前年度に見出した陽性細胞の増加の解析のため、画像解析ソフトを用いた細胞数カウントのプロトコルを固めた。その結果、左のIMMで特にFosタンパク陽性細胞の増加がみられることがわかった。さらに哺乳類の視覚野に相当するvisual Wulstでは学習直後に学習に関連した神経細胞活性がみられるが、今回の実験では大きな変化は見られず、IMMと相互にあるいは連動した変化は見いだせなかった。 2. 脳内表象に関連する細胞群の特定:二つの訓練刺激を使うことによって、IMMのどの細胞群が刺激に関連付けられているかを検討するため、Fos陽性細胞の数の変化およびmRNAとタンパクの発現の時間差を利用した免疫組織化学的実験を行っている。25年度は行動実験と脳サンプルの採取を完了した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
25年度は免疫組織化学を中心とした検討、および24年度に得た記憶固定化の時期におこる神経活動がどのような神経細胞群で起こるのか細胞特性の検討をすると計画していた。免疫組織化学を中心とした前年度のデータの詳細な解析を行い、その成果は北米神経科学学会にて発表された。また2つの刺激の脳内表象を検討する実験の行動実験および脳サンプルの採取は完了した。細胞特性の検討についてはNMDA受容体サブタイプとの二重染色を試み、受容体のいくつかの特殊な分布を見出すことができた。しかし、現在用いているFos抗体が蛍光プローブとの相性が悪く、クリアな染色像を得るのに苦心しており、この点については検討が必要である。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度のケンブリッジ大学内での実験を終え、現在はサンプルの日本への輸送手続きを進めている。このサンプルを用いて、埼玉医科大学内にて、免疫組織化学的実験とその解析を進める予定である。また必要な追加行動実験のため、埼玉医科大学内にて行動実験が行える環境を整える。25年度の成果は共同研究者の電気生理学的データの解析をまって、論文にまとめたいと考えている。 本研究で用いているFos抗体は、先行研究において学習強度とFosタンパクの関連性を示した際に用いたものと同じものであり、同一種の抗体を用いることが研究上重要だが、昨年度行った実験において用いた蛍光プローブとの相性が悪く、安定した染色像を得るのに苦心している。複数の蛍光プローブを試すことで解決を模索しているが、現在のところ、細胞の分布を検討するために最良な手法といい難い。このため、この手法の模索と並行して、2つの刺激を用いることによって、Fos陽性細胞の数がどう変化するかを比較することで同じ細胞が続けて反応しているのか、まったく異なる細胞が反応しているのかについて検討する実験を導入した。この実験の行動実験・脳サンプル採取はすでに完了している。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初24年度にふ卵器をはじめとした飼育・実験設備を埼玉医科大学に設置しようと考えていたが、24-25年度にケンブリッジ大学の実験室での実験が可能になり、そこでの設備を検討してからの導入した方がより良いと判断し、購入を見送った ふ卵器、育すう器(2台)、行動実験装置材料および加工費、行動実験装置制御用機器等に使用予定である。
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