ヒヨコにおける刻印づけを用いた、初期学習における記憶の脳内表象の検討と干渉のメカニズムの解明が本研究の目的である。実験では孵化後48時間のヒヨコに対し、人工刺激(内部照明付き、訓練中は回転)を一定時間提示することを学習訓練とした。被験体は個別に輪回し装置内におかれ、特定の方向に走った距離が回転数として記録された。刺激に対する学習強度は訓練後、訓練刺激と新奇刺激を交互にヒヨコに提示し、訓練刺激に向かって走った距離を総走行距離に対する割合で示した。必須な前脳部位であるintermediate and medial mesopallium(IMM)においては学習後の決まった時期に神経細胞の活性に変化が起こることが知られており、即初期遺伝子c-fosをマーカーとして、訓練刺激の脳内表象を検討した。特に記憶固定化に関連する、刻印づけ後5-9時間の睡眠時のFosタンパクの増加を睡眠群(装置を固定)と妨害群(ランダムに回転)とで検討した。 記憶固定化に関連すると考えられるIMMにおけるFos陽性細胞増加を、昨年度確立した画像解析ソフトによる細胞数カウントプロトコルを用いて、バイアスの入らない詳細な解析を進めた。刻印づけ後9時間の睡眠群で左のIMMで特にFosタンパク陽性細胞の増加がみられた。接触や動きによってもFosは発現するため、妨害群での増加が予想されたが、睡眠群で有意に多かった。哺乳類の視覚野に相当するvisual Wulst(VW)では学習直後に学習に関連した神経細胞活性がみられるが、今回の実験では大きな変化は見られず、さらに刻印づけ後にIMMと同じタイミングで増加(学習強度との関連性なし)する海馬(HP)においても増加が見いだされず、いずれもIMMとの連動も左右差も見られなかった。これらのことから、記憶固定化のプロセスは視覚入力に関連する部位とのインタラクションなしに行われているのではないかと考えられる。
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