研究課題/領域番号 |
24530919
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 青山学院大学 |
研究代表者 |
重野 純 青山学院大学, 教育人間科学部, 教授 (20162589)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 感情音声 / 文化間比較 / 日本語母語話者 / 中国語母語話者 / マルチモーダル |
研究概要 |
本研究の目的は「声質の情報処理モデル」を構築することである。そのために、感情音声や発話リズムなどの発話スタイルを変数とした実験を行い、その結果をもとに声質の認知メカニズムを明らかにすることを目指す。平成24年度は研究の第1年目であり、研究の道筋をつけるための数種類の予備実験を繰り返し行った。その結果を参考にして、声質の情報処理に及ぼす感情音声の役割を主に検討することとし、本実験を行った。本実験は、①ランダムスプライシング実験②音声の感情に関する認知実験を行った。①では日本語で読み上げた文章をランダムスプライシング(短文を読み上げた音声をランダムに切り出してランダムに並べ直す)を施して刺激音声を作成し、聴取実験を行った。結果については、分析中である。②では感情音声を用いて、話者と被験者が日本語を母語とする場合と中国語を母語とする場合について、3つのマルチモーダル実験(視覚のみ提示、聴覚のみ提示、視聴覚提示)を行い、実験結果を日中間で比較した。その結果、日本語母語話者である日本人被験者と中国語母語話者である中国人被験者は、視覚のみ提示実験と視聴覚提示実験ではほぼ同じ傾向の結果を示したが、視覚のみ提示実験では日本人被験者と中国人被験者のあいだに量的な差異が認められた。また、聴覚のみ実験では話者が日本語母語話者か中国語母語話者かによって、それぞれの被験者の判断が逆転することがわかった。以上の結果についてはまだ分析の途中であるが、文化及び言語の類似性と相違性から考察を行った。また、これらの実験結果を以前に行った日米の感情認知実験の結果と比較し、文化間(in-group, out-group間)比較の考察を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は声質の認知メカニズムを明らかにすることであるが、研究1年目の平成24年度は、研究全体の道筋をつけるための予備実験を種々行い、その結果をもとに本実験を行い、研究全体の実験計画の確認を行った。その結果、いくつかの新しい知見が得られ、研究に道筋を付けるという本年度の目的は達成された。その一方で、本実験は当初予定していた内容とは多少異なる内容となったものもあった。また、本実験として行なった2つの実験結果のデータ数が多いことなどの理由から、分析はまだ途中段階であり、次年度以降に持ち越された。 2012年10月にICPEAL(国際学会)においてそれまでの成果について発表したが、中国やオランダなどの研究者が発表内容に興味を示し、コメントや質問や感想をもらえたこと、および有益なディスカッションを行えたことは大きな収穫であった。 以上、実験の一部や分析の一部を次年度に持ち越したところもあるが、実験はほぼ計画通りに進んでおり、全体としてはほぼ年度当初の目的を達成できていると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度は日本語母語話者と中国語母語話者の間で感情音声の認知成績を、マルチモーダル実験(視覚のみ提示、聴覚のみ提示、視聴覚提示)を行って比較したが、今後は発話リズムなどの発話スタイルも変数とした実験を行う計画である。 まず、平成25年度は前年度に引き続き感情音声を用いた知覚実験を行う。実験は、日本語母語話者と他言語母語話者(ウクライナ、ロシア、ブラジル、スウェーデン)についてマルチモーダル知覚実験を行い、その結果を平成24年度の中国人母語話者の結果、さらに以前行ったアメリカ人の結果と比較し、検討する。さらにこれらの検討結果をもとにして、文化間(in-group, out-group間)の認知行動の同異を中心にして考察する。 さらに発話リズムや感情以外の発話スタイル変数(発話音声の音量や、褒める・けなすなど)についても、予備実験を繰り返し行い、最適な実験条件を選び、本実験を実施する予定である。これらの研究と並行しながら、平成24年度の実験データについても、多変量解析などの新たな手法での分析を試みることを計画している。
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次年度の研究費の使用計画 |
物品費は、PCなどの主要なものは現有の機器を用いるが、ヘッドホンなど現有のものが老朽化して使用できなくなっている機器もあるのでそれらを購入するために必要である。また、実験に必要な消耗品(DVDやケーブルなど)を購入する。 謝金は、実験参加者への謝金が主である。実験数がかなり多くなる予定であり、多人数の被験者が必要となる。また、すでに収録してある音声の編集は映画製作会社などの専門の技術者の技能を必要とするものもあるので、それらについては専門家に依頼して作成する。さらに、得られた研究成果を学会誌へ投稿するための英文校閲費に使用する。 旅費は、研究成果を国内学会および国際学会にて発表するために使用する。国内学会としては日本心理学会や日本基礎心理学会の研究発表会での発表を計画している。また、国際学会としては、アメリカ音響学会またはINTERSPEECHでの発表を検討している。 その他の費用は、論文投稿費や論文別刷代などのために使用する予定である。
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