本研究の目的は、感情や発話リズムなどの発話スタイルを変数とした実験を行い、その結果をもとに声質の認知メカニズムを検討することであった。 2012-2014年度に複数の実験を行った。主なものは、①日本語母語話者と中国語母語話者を被験者として、感情を表出した母語・非母語音声に対する認知を調べるためのマルチモーダルな認知実験、②中国語以外の4言語を用いた①と同様の実験、③ランダム・スプライシングを用いた音声マスキングによる認知実験、④逆再生法を用いた音声マスキングによる認知実験、⑤日本語を用いた①と同様の実験、⑥声質の記憶に関する実験などである。これらの実験結果から、日本語母語話者と中国語母語話者は、視覚のみ実験と視聴覚実験ではほぼ同じ傾向を示したが、聴覚のみ実験では異なる傾向を示したこと、声質の認知に及ぼす音声の感情による影響が大きいこと、などいくつかの新しい知見を得た。 2015年度は以上の成果をもとにして音声情報の処理プロセスについての仮説を提案して英語論文2本にまとめ、研究を終了した。その一つは、話者の言語と聴取者の言語の関係(母語・非母語)が感情音声の認知に及ぼす影響についての研究であった。他の一つは文脈効果についての研究であり、日本語音声聴取におけるトップダウン処理の役割を示した研究であった。いずれの論文も日本語の特徴を中心に考察した。本課題の研究により、声質情報が処理されるプロセスにおいて、言語の意味情報と音声の感情情報が大きくかかわることを明らかにすることができた。
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