本研究は高齢者のメタ記憶の特性を明らかにするために成人を対象に生涯発達の観点から研究を行った。今回は記憶を含めたより幅広い認知の自己効力感と自己の認知機能の評価能力、および両者の関係について年齢群間で比較することを目的とした。調査は20-88歳までの計265名の参加者を対象に行われた。本研究に関連し、著書2件(各1章担当)、論文5本(査読付)、学会発表等6件、ハンドブック2件の発表が行われた。その他に関連する論文を執筆中である。現時点での注目すべき主な成果は以下の三つである。 第1に、高齢期における認知課題の成績とメタ記憶との関係についてである。自己の記憶の評価が記憶のみならず記憶以外の認知課題との成績とも関連していること、ただし、相関の程度や方向はメタ記憶尺度の特性によって異なり、場合によっては負の相関(認知課題の成績が良い人が、記憶力を低く評価している)を報告した。相関の方向性については、文化差を含めて今後より詳細に研究する必要がある。 第2に、高齢期における認知機能の評価能力(モニタリング能力)についてである。日本の高齢者を対象にした認知機能の評価能力の精確さについての研究はあまりない。本研究では高齢者に複数の認知課題の前後に各課題の成績を予想してもらい実際の認知課題成績との相関を調べた。結果、両者に有意な正の相関が複数の課題で認められ、高齢者の認知機能の評価能力(特に記憶力)がある程度は健全に機能している可能性が高い。 第3に、高齢期における記憶の自己効力感と日常生活の活動との関係である。 記憶についての自己評価(自己効力感)の高い高齢者はそうでない人に比べ、自身の日常生活や健康状態により満足している傾向があることが明らかになった。両者の因果関係については不明であるが、記憶について自信のある人はより充実した生活を送っていることが明らかになった。
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