研究課題/領域番号 |
24530922
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研究機関 | 上智大学 |
研究代表者 |
岡田 隆 上智大学, 総合人間科学部, 教授 (00242082)
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キーワード | メラトニン / 位置再認課題 / 海馬 / 松果体 |
研究概要 |
一日のうちのさまざまな時間帯においてラットに海馬依存性の位置再認課題を課した平成24年度の研究において、その成績が日中よりも夜間のほうが良いことを示した。成績の日内変動を司る脳内メカニズムを検討する上で、私たちは松果体ホルモンであるメラトニンの分泌が日内変動を示すことに着目し、平成25年度は、成績の日内変動に及ぼすメラトニンの影響について検討した。ラットを、明期であるZT8(飼育室の照明点灯から8時間後)に実験を行う群と、暗期であるZT20(消灯から8時間後)に行う群とに分け、さらに、メラトニンを投与する群と生理食塩水を投与する群にそれぞれを分けた。玩具の市販ブロックを用いて被探索物体を作った。装置馴致等の手続き後、形状の異なる物体を装置内の対角線上に配置し、ラットを10分間探索させ獲得試行としたが、その獲得試行開始30分前にメラトニンまたは生理食塩水を腹腔内投与した。獲得試行の1時間後に5分間のテスト試行を行い、このテスト試行では2つの物体のうち一方の物体の位置のみ獲得試行と異なっていた。ラットの行動は箱の上部から動画撮影し、物体に対してスニッフィングした時間を探索行動と定義した。その結果、生理食塩水を投与した統制群では、ZT20で課題を行った場合には有意に位置再認ができた(テスト試行において新奇位置の物体をより長く探索した)が、ZT8で行った場合には位置再認ができなかった(テスト試行において新奇位置の物体も既知位置の物体も同程度に探索した)。一方、メラトニン投与群では逆に、ZT8条件で有意に位置再認ができ、ZT20条件では位置再認ができなかった。以上の結果から、位置再認課題の遂行において、メラトニンが成績日内変動に影響を及ぼすことが示され、学習課題遂行に最適なメラトニン濃度の範囲の存在が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
位置再認課題の日内変動におけるメラトニンの影響を調べるという平成25年度までの計画通りに進んでいる。本研究課題における平成25年度までの結果は、Behavioural Brain Research誌(256巻488~493ページ, 2013年)掲載の原著論文において公表した。
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今後の研究の推進方策 |
海馬の長期増強の大きさにはメラトニンが抑制的に作用することをすでに私たちは見いだしているが(Neuroscience Research誌、69巻1~7ページ, 2011年)、もし位置再認課題の遂行に海馬の長期増強が必要ならば、平成25年度に見いだした結果は部分的に矛盾することになる(日中、メラトニン濃度をむしろ上昇させた方が成績が上昇している点。夜間における成績低下は矛盾しない)。一方、ドイツのグループによる近年の研究により、位置再認課題には海馬の長期増強ではなく長期抑圧の誘導が必要であることが示唆されている。記憶の日内変動のメカニズムを知るという本研究課題の完遂のためには、海馬シナプス可塑性とメラトニンとの関係をさらに詳細に調べることが不可欠と考え、平成26年度は、おもに電気生理学的手法を用い海馬の長期抑圧に及ぼすメラトニンの影響とその細胞内メカニズムの解明を目指す。海馬スライス標本をラットから作製し、長期抑圧を誘導すると考えられる条件の低頻度刺激を与えて生じるシナプス可塑性に対するメラトニンの効果を測定する。予備的実験はすでに開始している。また、もし長期抑圧にメラトニンが作用する場合には、その長期抑圧がNMDA受容体依存性のものなのか、代謝型グルタミン酸受容体を介したものなのかについて、薬理学的手法を併用して検討する。
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