海馬のはたらきに依存する学習課題として新奇位置再認課題が挙げられる。平成24~25年度において、この課題成績の日内変動と松果体ホルモン・メラトニンとの関係について、ラットを用いた行動実験によって明らかにした。両者の関係性をになう海馬内機序を詳細に調べるため、平成26年度は電気生理学的手法により、海馬CA1領域シナプス応答の長期抑圧に及ぼすメラトニンの影響について、長期抑圧の誘導経路別に検討した。Wistar系ラット(オス、4~5週齢)の脳から海馬スライス標本を作製し、シャファー側副枝へのテスト刺激(0.1 Hz)に対するシナプス応答をCA1領域から細胞外記録した。安定したシナプス応答を確認後、NMDA型グルタミン酸受容体依存的な長期抑圧を誘導しうる低頻度刺激(1 Hz、15分間)を与え、その後60分間テスト刺激(0.1 Hz)に対するシナプス応答を記録した。実験開始時から終了までメラトニン(100 nM)を投与し続けるメラトニン群、およびメラトニンを投与しない統制群のシナプス応答を比較したところ、長期抑圧はメラトニン群でのみ生じたことから、メラトニンによって海馬長期抑圧の誘導が促進されることが明らかになった。次に、代謝型グルタミン酸受容体依存的に生じる長期抑圧への影響を調べるため、当該受容体の作用薬であるDHPG(40 uM)を10分間投与して長期抑圧を誘導した際の抑圧の程度をメラトニンの有無で比較したところ、この誘導条件下ではメラトニンの有無にかかわらず同程度の長期抑圧が誘導された。今回の実験により、NMDA受容体依存的に長期抑圧を誘導する経路にはメラトニンが促進的に関与するが、代謝型グルタミン酸受容体依存的な長期抑圧に対してはメラトニンが調節的作用を及ぼさないことが示唆された。
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