本研究では,3カ国にまたがり認知や行動の左右差について文化比較を実施した。特に大脳半球機能差に起因する認知や行動の左右差に焦点をあて,文化的要因と大脳半球機能に由来する生物学的要因の相互作用について検討を行った。 代表的な研究成果として,利き手の測定方法の開発とそれを使用した文化比較のデータがある。利き手は脳の構造や機能的な差異と相関するため,さまざまな研究や臨床の現場で測定される。しかし,本邦では信頼性と妥当性が十分に検討された利き手の測定方が確立していなかった。そこで,オーストラリアのフリンダース大学と共同で信頼性と妥当性を備えた利き手の測定法を開発した。そして,この測定法をつかい,オーストラリアと日本の比較を行ったところ,右利きと左利きの比率に大きな違いはないものの,両利きの比率に差があった。具体的には日本では両利きがオーストラリアより少なくなった。これは日本で,右利きへの矯正がオーストラリアよりも多く行われることを示唆する。この利き手の測定法の開発は日本心理学会大会において学術大会優秀発表賞を受賞し,さらに同学会の論文誌「心理学研究」に掲載された。 また,注意分配の左右差について,日本,ノルウェー,オーストラリアの間で比較を行った。Framed-line testで用いられる線を枠で囲む刺激を用い実験を行ったところ,日本人では刺激の左側に注意を向けることを示す回答が見られ,枠の大きさが増大するほどその傾向が強くなった。一方,ノルウェーとオーストラリアではその傾向がなかった。この文化差に上述のテストで測定した利き手得点は影響しなかった。 本研究では,認知と行動の左右差について,(1)代表的な左右差である利き手を測定する手法を開発し,それに基づき文化差を測定した。そして,(2)注意が関連する認知機能の文化差に利き手のような生物学的側面が影響しないことを明らかにした。
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