研究課題/領域番号 |
24530926
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研究機関 | 中京大学 |
研究代表者 |
村上 隆 中京大学, 現代社会学部, 教授 (70093078)
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キーワード | 主成分分析 / カテゴリカルデータ / 数量化理論 / 主クラスター成分分析 / 余剰次元の解釈 |
研究概要 |
(広い意味での)探索的因子分析は,心理学的個人差尺度構成の方法として,広く用いられているものであるが,そこには,なお未解決の問題がいくつか残されている。そのうちの1つが,質問項目に対して付与された3~9段階の反応カテゴリーを,そのまま数値とみなして分析してもよいかという問題である。 このような質問項目は,その創始者(というか,その使用可能性について論文をまとめた)の名をとってLikert尺度と呼ばれている。Likert 自身の論文を読めば,彼が決して無反省にカテゴリー反応を数値とみなしていたわけではないことはあきらかである。しかしながら,こうしたデータの取り扱いについて何の検討もなく分析を行うなら,重要な情報の見落とした起こる可能性もなしとしない。 そうした検討の方法として,数量化,あるいは現在広く用いられている用語で言えば,多重対応分析という方法がある。これは,データが含む情報を,カテゴリーの順序情報すら無視して,最大限数値化して表現しようとするものであるが,そこには,本来存在しない量的な情報を生み出してしまう。いわゆる余剰次元の問題がつきまとう。また,きわめて一般的な質的データを念頭において定式化されているために,Likert 尺度のように同質的な項目を多数含む形のデータの分析には,かえって不便を生じることもある。 本研究は,そうした質的データの数量化を,通常の数量的データの分析方法である主成分分析と同様な扱いが可能になるように改善することを目的として行われている。そこでは,負荷行列やその回転等,主成分分析で用いられる統計量やその変換が行われるが,さらに本研究では,積極的にLikert流の数値を,多重対応分析の中に埋め込む方法についても検討を行い,実用上の可能性も確かめつつある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究に着手して以降,2つの点で大きな進展があったと考えている。 第1に,多重対応分析に負荷行列の計算とその回転を加えた非計量的主成分分析の枠組みの中に,Likert流の量的情報を組み込むための条件を明らかにし,質的データの分析方法としてのデータへの当てはまりにはなんら影響を与えないまま,データを量的部分と残差部分に分解する方法をほぼ完成し,いくつかのデータに適用,興味深い知見を生み出すに至ったことである。 第2に,それによって得られる項目間の相関行列に適用される,完全単純構造の制約条件つき主成分分析の方法の定式化に成功したことである。これについては,昨年の国際学会での発表以降,既存の方法である主クラスター成分分析との関係を明らかにしたり,リサンプリング法による確認的分析の可能性をある程度示すなど,成果があがりつつある。
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今後の研究の推進方策 |
「現在までの達成度」で述べた2つの方向性をさらに追求していく。あくまでも実データの分析,特に,心理学的な個人差のアセスメントへの応用を重視し,実際のデータ分析を進める中で,特に次の点を明らかにしたい。 順序のあるカテゴリカルデータの分析に関しては,Likert流の数量で説明できる分散の大きさと残差部分の比率について,多くのデータで確認するとともに,残差部分の解釈可能性について,余剰次元との境界を明確にする基準の確率に務める。 完全単純構造の制約条件つき主成分分析については,リサンプリングによる確認的分析によって,適切な次元数の決定と,項目選択を行う可能性について,より多くのデータの分析の経験を積み重ね,手続きと基準を明らかにするように努める。 2つの特徴があいまって,従来のルーティンワーク的な尺度構成法から脱却する道を見出していくことが,次年度の目標である。
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次年度の研究費の使用計画 |
年度の最後の段階で実施した調査データの入力作業を,学生のアルバイターに依頼したが,これが年度末ギリギリまでかかったため,最終的な残額についての確信がもてなかった。年度内に本研究関連の図書資料を購入,支払い(立て替え)も済ませていたが,領収書の提示が次年度にまわることになった。 すでに全額を使用した。
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