研究概要 |
1.文字刺激の問題 昨年度は文字処理で見出された日本語母語者の形態情報への依存度が高く音韻情報への依存度が低いという処理特性が単語処理でも認められることを語彙判断実験で検証し,本年度はこれを英語論文化して投稿・採択された(Mizuno & Matsui, 2013)。本年度はこの知見を基に,以下の検討を行った。英語母語者の単語のメモリスパンには,単語の音韻的長さが大きく影響することが知られている (Baddeley, Thomson, & Buchanan, 1975)。しかし,日本語母語者では上述のような処理特性がある以上,単語の音韻的長さではなく形態的長さが影響する可能性が高いと考えた。そして,単語の文字数を統制して音韻的長さを変えた実験,音韻的長さを統制して文字数を変えた実験,音韻の特有な熟字訓の単語を用いた実験で日本語母語者のメモリスパンを測定して上の仮説を検証し,投稿・採択された (水野・松井, 2014)。 2.実験配置の問題 2刺激を様々なISIで呈示する場合,ISIをブロック内配置するとISIが短い時に時間的不測性が増大し,反応時間の想定外の遅延を招くことがわかっている。昨年までの研究で筆者らはこの方法論的問題への防止策として,第2刺激が提示されないcatch trialの利用を提言した。本年度は,時間的不測性の偏りを解消する要因を解明すべく,catch trialとcatch trialから次の試行開始までの時間間隔と同じISIで第2刺激が呈示される場合を比較し,単なる時間間隔だけではなく,第2刺激が呈示されないという事実も全体的な時間的不測性の増大に貢献していることを示した。また,単にISIが0 msに近い時に時間的不測性が高まるのではなく,設定された全ISIの相対的大きさが時間的不測性に影響することを,ISIの最小値を変化させた実験で明らかにした。
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