本研究は,日本語の視覚的単語の特色に着目して,標準的な単語認知課題を用いて行動指標(反応時間・誤反応率)を測定する実験を複合的に実施するとともに,そのような行動指標に現れる前の処理過程についても検討するために,眼球運動の軌跡を測定する実験を 行うことを計画した。 本研究は昨年度,1年の期間延長を申請しており,本年度は,眼球運動の軌跡を測定する実験の追加を行った。 実験には,先行呈示された漢字二字熟語に対応するアイコンを,モニターの4隅に後続呈示されたアイコンの中から探索する課題を用い,アイコン内に先行呈示された漢字熟語に対する同音異義語と意味的関連を持つ語彙(以下,間接意味関連語)に相当するアイコンの有無が,反応時間と眼球運動に及ぼす影響を検討した。具体的には,“衣料”というプライマーに対し,その同音異義語である“医療”と意味的関連を持つ,“病院”を表すアイコンが含まれる条件と含まれない条件とで,ターゲット語である“衣料”に相当するアイコンへの反応時間と眼球運動の軌跡を比較した。 対象者には,日本人大学生と日本語を第二外国語として習得した留学生とを用いた。実験の結果,日本人大学生では,探索課題に対する反応時間において,ディストラクタとなる間接意味関連語が含まれる条件と含まれない条件間で傾向差が認められた。このことから,先行呈示された漢字熟語の音韻情報による語彙活性化が生起し,画面内に呈示された間接意味関連語アイコンにも注意が向けられる可能性が示唆された。一方で,留学生の結果には,有意な差が認められなかった。これは,語彙量の多寡が影響した結果と考えられる。 視線の分析については,呈示されたアイコンへの固視時間比を分析の対象としたが,いずれの対象においても,アイコンの種類で固視時間比に有意な差は認められなかった。
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