砂糖に対して、薬物と類似した強い渇望(craving)を伴う“中毒”症状が生じているとの説が、近年注目されている。本年度は、渇望の増強(渇望の孵化)を抑制する手法を検討した。具体的には、飼育環境の豊富化が、渇望の増強を抑制する効果を検討した。 訓練期では、ラットがレバーを押すと砂糖ペレットが与えられ、さらに光と音の複合刺激(cue)が同時に与えられた。その後、ラットは3つの群に分かれ、摂取テストとcueテストを受けた。摂取テストの手続きは訓練と同様であり、レバー押しに対して砂糖ペレットとcueを与えた。Cueテストではレバー押しにcueのみを与え、砂糖ペレットは与えなかった。1つめの群(1日群)は、訓練最終日の翌日に摂取テスト、その翌日にcueテストを受けた。残り2つの群(30日群と豊富化群)は、訓練最終日の30日後に摂取テスト、その翌日にcueテストを受けた。いずれの群でも、訓練終了後から摂取テストの間では砂糖を剥奪した。30日群では、訓練終了後からテストまで、通常の環境で飼育した。豊富化群では、訓練終了後から飼育環境を変え、より広いケージで、2匹で飼育し、回転車などの新奇な物体を与えた。 両方のテストで、30日群は1日群よりも多く反応した。つまり、砂糖摂取の増強と、cue反応性の増強が生じた。豊富化群は、摂取テストの反応数は1日群より多く、30日群とは差が無かった。つまり、環境豊富化は砂糖摂取の増強を抑制しなかった。一方、cueテストにおいては、豊富化群の反応数は1日群と同程度であり、cue反応性の増強を抑制した。以上の結果は、環境豊富化が渇望の増強を抑制する効果は、砂糖摂取行動とcueへの反応性で異なることを意味する。
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