研究課題/領域番号 |
24530934
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
井上 高聡 北海道大学, 大学文書館, 助教 (90312420)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 開拓使 / 学校 / 教育政策 |
研究概要 |
2012年度は、北海道立文書館・北海道大学附属図書館北方資料室・北海道立図書館・函館市中央図書館・鶴岡市立図書館が所蔵する開拓使文書及び関連する個人資料の調査を行なった。 資料調査を基に、教育史学会大会において「開拓使の学校設置策」を研究発表し、以下の内容を明らかにした。開拓使が小学設置・普及に着手するに際して、従来の専門技術者・官員養成を目的とした官立学校を官立小学に改編し模範校と位置づけた。官立小学は、教員養成や教則制定などを通じ、後発の小学の設置を支援する役割を果たした。しかし、官立小学は飽くまで例外であり、開拓使が設置・普及を図ったのは公立学校であった。地域基盤が脆弱な北海道で公立学校を設置・普及するには、より手厚い補助が不可欠であった。一方で、函館・福山・江差・札幌・小樽といった都市形成が比較的進んだ地域については、「学制」施行も可能であった。こうした北海道特有の地域間格差のため、開拓使は、一部地域の「学制」先行施行と手厚い官費補助を柱とする「学政ノ大綱」を立案した。また、地域間格差に対応して学校を設置、普及するためには、それぞれの地域状况に適合的な学校形態が必要であった。開拓使は、教育内容や施設規模などによる学校の種別化を行なった。 論文「札幌農学校開校のころの北海道----三条実美太政大臣北巡を手掛かりに」を執筆・掲載した。本論文では、黒田清隆開拓長官が「開拓」の成果が上がりつつあり、今後さらに成果を上げる必要のある北海道の実情を、三条実美太政大臣、山県有朋陸軍卿、伊藤博文工部卿、寺島宗則外務卿ら中央政府要人に披瀝するために計画・実施した北海道巡見の記録を基に、開拓使の教育政策が大きく転換した1876年前後の北海道を取り巻く状況を考察した。 開拓使が設置した最初期の学校の様子を記録した貴重な回想を「開拓使仮学校生徒戸澤和鼎回想録(抄)」として翻刻し掲載した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
資料調査では、関係資料の有無の確認、資料収集、資料解読を予定通り行なうことができた。 学会における研究発表「開拓使の学校設置策」では、開拓使の初等教育普及策について、学務担当部署の設置、従来の専門技術者養成目的の官立学校の小学模範校への改編、都市部と村落部における教育所・学校の設置といった視点から、資料に基づく実証的な考察を行なうことができた。 掲載論文「札幌農学校開校のころの北海道----三条実美太政大臣北巡を手掛かりに」では、開拓使が北海道統治策を本格化することと、同時期の教育政策の転換の関連性を、三条実美太政大臣ら中央政府要人の北海道巡見の記録を基に、考察することができた。 また、専門技術者養成のために開拓使が設置した官立学校の実情を記録した回想記録を「開拓使仮学校生徒戸澤鼎回想録(抄)」として翻刻し、開拓使の教育政策転換前の学校の実情を把握することができた。 以上により、1874年に開拓使が初等教育普及に重点を置く教育政策を展開しはじめてからの学校設置策について、概ね目的に沿って計画通りに研究を進め得たと評価する。
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今後の研究の推進方策 |
2013年度は、北海道立文書館、北海道大学附属図書館北方資料室、北海道立図書館、市立釧路図書館、根室市図書館、国立公文書館、東京都公文書館において資料調査を行なう。北海道内の各地における学校普及策個々の特徴を明らかにすると共に、他府県の方策からの影響と相違点といった視点からも考察する。資料調査を踏まえ、北海道歴史研究者協議会例会(7月、札幌)、教育史学会(10月、福岡大学)などで研究発表を行なう。研究発表の成果を踏まえ、論文を作成して、学会誌・紀要等に投稿する。 2014年度は、北海道立文書館、北海道大学附属図書館北方資料室、北海道立図書館、函館市中央図書館、国立公文書館、国立国会図書館憲政資料室において資料調査を行なう。1882年の開拓使廃止と札幌・函館・根室三県の分置により北海道は形式的には他府県同様の制度となったが、施策においては開拓使の政策を踏襲した。しかし、この時期に金子堅太郎が北海道視察に基づいて政府に提出した復命書は、従来の北海道「開拓」政策を批判する内容であった。政府の北海道統治方針は、制度・政策において新たな画期を迎えることとなった。以上について、資料調査を踏まえ、関係学会・研究会で研究発表を行なう。研究発表の成果を踏まえ、論文を作成して、学会誌・紀要等に投稿する。
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次年度の研究費の使用計画 |
1、設備備品費 (1)近代日本教育史関係図書 30千円 2、消耗品費 (1)複写資料保存用ファイル 24千円 3、旅費 (1)資料調査(札幌-釧路)5日間 68千円、(2)資料調査(札幌-根室)5日間 71千円、(3)資料調査(札幌-東京)5日間 92千円、(4)研究発表(札幌-福岡)4日間 93千円 4、その他 (1)資料調査補助謝金(1人×48日) 312千円、(2)資料複写費 10千円 次年度使用額70,123円は、2013年3月21-25日に行なった資料調査旅費として使用したが、支払いが2013年4月5日であるため、当該研究費が生じた。2013年度の支出額として計上する。
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