研究課題/領域番号 |
24530934
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
井上 高聡 北海道大学, 大学文書館, 助教 (90312420)
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キーワード | 開拓使 / 学校 / 教育政策 |
研究概要 |
2013年度は、北海道立文書館・北海道大学附属図書館北方資料室・北海道立文書館・国立公文書館・国立国会図書館・東京都公文書館・釧路市立図書館・市立根室図書館が所蔵する開拓使文書、関連する個人資料、学校沿革誌などの調査を行なった。 資料調査を基に、教育史学会大会において、「開拓使の「小学教則」・「変則小学教則」の制定(1880年)」を研究発表し、以下の内容を明らかにした。開拓使は、札幌・函館の学校をモデル校として、文部省が定めた「小学教則」を実施していたが、それが可能であったのは施設・設備・教員などの条件が揃う市街部の極一部の学校に限られていた。村落部を中心に、ほとんどの学校・教育所では、従来からの読み・書きを主体とする寺子屋様の手習教育を行なっていた。開拓使が北海道全域において学校普及・整備を進めるためには、こうした地域の学校・教育所においてもある程度、文部省の「小学教則」に準じた教育内容を実施することが課題であった。開拓使は、1880年に独自に「小学教則」・「変則小学教則」を制定した。市街部の学校に対しては、文部省の定めた教則の内容をやや切り下げた「小学教則」を実施した。寺子屋様の手習教育が続いていた村落部の学校・教育所に対しては、村落部の実情に配慮して、さらに簡易な内容を定めた「変則小学教則」を実施し、教育内容の質的な転換と底上げを図った。開拓使は「小学教則」・「変則小学教則」を制定、実施することにより、市街部・村落部の教育内容における格差の是正、平準化を行なうと共に、北海道全域において学齢者がある程度同質の教育内容を一定期間享受できる学校を整備していくことを意図したのである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
資料調査では、関係資料の有無の確認、資料収集、資料解読を予定通り行なうことができた。 学会における研究発表「開拓使の「小学教則」・「変則小学教則」の制定(1880年)」では、開拓使札幌本庁が他府県の動向を参照しながら「小学教則」・「変則小学教則」制定を発議し、黒田清隆開拓長官の意向を反映させて、1880年1月に両教則を布達する過程を検討した。北海道全域における教育内容の統一、市街部・村落部双方の実情への配慮、「実業現術」指導の重視といった開拓使の政策方針を明らかにすることにより、カリキュラム制定の側面から開拓使の学校教育政策の特色を考察することができた。 カリキュラム制定・実施の政策は、それを教授することができる教員の確保・養成の問題とも大きく関係するため、2014年度に実施する、開拓使の教員養成・確保策に関する研究と共に、研究発表の論文化を進める予定である。 以上により、概ね目的に沿って計画通り研究を進め得たと評価する。
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今後の研究の推進方策 |
2014年度は、北海道立文書館、北海道大学附属図書館北方資料室、北海道立図書館、函館市中央図書館、国立公文書館、国立国会図書館憲政資料室等において資料調査を行なう。 2013年度の計画で明らかにした、開拓使による「小学教則」・「変則小学教則」の制定は、教則の内容を理解して教授することができる教員の確保・養成策へと結びつく。開拓使は、本州以南の師範学校卒業生を招聘すると共に、札幌や函館の市街部の学校に「小学教科伝習所」等を付設し、教員の速成を実施した。同時に、市街部のモデル校の教員が村落部の学校・教育所を巡回したり指導したりする体制をとった。2014年度は、こうした開拓使の教員確保・養成策について、資料調査を踏まえて研究発表を行なう。2013年度の研究発表と合わせて、論文を作成して、学会誌・紀要等に投稿する。 1882年の開拓使廃止と札幌・函館・根室三県の分置後に金子堅太郎が北海道を視察して政府に提出した復命書は、開拓使の北海道「開拓」政策を批判する内容であった。北海道統治方針を画することになる金子の復命書について、資料調査に基づいて考察し、研究発表または論文投稿を行なう。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度使用額183,649円については、(1)3月5日に発注した物品費1,920円、(2)3月6日に発注した資料複写費103,005円、(3)2014年3月22-26日に行なった資料調査旅費78,724円、として使用したが、支払いが4月であるため、当該研究費が生じた。 上記の理由により生じた次年度使用額は、実質的には当該年度に使用しているが、2014年度の支出額として計上する。
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