研究課題/領域番号 |
24530936
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研究機関 | 北海道教育大学 |
研究代表者 |
宮原 順寛 北海道教育大学, 教育学研究科(研究院), 准教授 (10326481)
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キーワード | 現象学的教育学 / 教育的タクト / 校内研修 / エピソード記述 / 関与観察 / 演劇的知 / 主観と客観の間の二分法 / 間主観性 |
研究概要 |
長崎県佐世保市の中学校および同諫早市の小学校、北海道石狩市の小学校、同札幌市の小中高等学校、北海道教育大学の附属小中学校において、授業研究ならびに校内研修のフィールドワークを行った。これらから得た知見を踏まえつつ、以下のような文献に基づく考察を行った。 E. フッサールの現象学は、他の現象学者からも誤解を受けてきた。オランダの現象学的教育学の祖であるM. J. ランゲフェルトにおいても、フッサールの現象学に対する否定的な立場が強く見られる。また、日本において現象学を教育実践の研究に援用するという研究の多くが、フッサールではなく、M. ハイデガー、M. メルロ=ポンティ、J-P. サルトルらに依っている。しかしながら、とりわけフッサール現象学の「間主観性」に関する議論については近年再評価がなされつつある。 これらの検討を踏まえて、心理学ならびに幼児教育学の分野において既に現象学を基盤にした質的な研究方法を提唱している鯨岡峻のエピソード記述と関与観察について整理した。授業研究を通した「思慮深さの養成」について、先述のフィールドワークの中から事例を挙げてエピソード記述の手法を用いて考察した。 また、日本の教育方法学研究史において、1990年代半ばに演劇的知のパラダイムの再考が提唱された際には、現象学に由来する「間主観性」の代わりに専ら「相互主体性」という術語が用いられた。このことによって学習者を主体として位置づけつつ授業者との相互主体性へと止揚する視野が開かれた一方で、主観と客観の間の二分法を克服するために資するはずの間主観性の議論の方向性が見失われた。教職の専門性の在り方を明らかにし校内研修の内実を整備するためには、教育実践のエピソードから当該実践の当事者ではない他者が学ぶ道筋を明らかにするために、間主観性の概念を用いた他者理解の構造の解明が必要であることを提起した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究においては、A. 日本における先行研究の整理、B. 海外の文献の翻訳読解検討、C. 授業研究ならびに聴き取り調査、の3点を具体的な研究内容として掲げている。このうち、Aについては関連する先行研究の概略をほぼ渉猟し、Bについては数冊について翻訳検討を進めつつあり、Cについては協力学校を確保して数回にわたって訪問するといった具体的な成果を挙げている。 A(日本における先行研究の整理)については、現象学的教育学や教育的タクト論についての先行研究の成果と課題についての洗い出しの概略を済ませ、日本教育方法学会や北海道臨床教育学会等での発表を行っている。 B(海外の文献の翻訳読解検討)については、現象学的教育学のカナダにおける泰斗であるマックス・ヴァン=マーネンの著書のうち本邦においては未だ翻訳刊行されていない『子ども時代の秘密』(ヴァン=マーネンとオランダの研究者との共著)について読解を進め、一部の成果を北海道臨床教育学会において発表した。 C(授業研究ならびに聴き取り調査)については、長崎県内(諫早市および佐世保市)および北海道内(札幌市および石狩市)の小中高等学校等を対象に、授業研究による学校改革や教員研修といった視点からフィールドワークを行った。学校および受入学級の担当教師との間での信頼関係を醸成しつつ、授業の実践事例をフィールドノートに蓄積し、関連する一部のエピソード記述とその考察を本研究代表者の所属先の専攻紀要に論文として発表した。 以上のように、本研究においては当初の研究計画に対して概ね順調に研究を遂行している。
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今後の研究の推進方策 |
本研究においては、研究計画において、A. 日本における先行研究の整理、B. 海外の文献の翻訳読解検討、C. 授業研究ならびに聴き取り調査、の3点を具体的な研究内容として掲げている。本研究の最終年度である2014年度では、上述の研究を深めることを通して、研究のまとめを行う。 このうち、A(日本における先行研究の整理)については、学会等での発表を機に得られた情報網を活用しつつ、さらなる情報の取得に努め、遺漏がないように努める。また、教師の専門性に関する実践記述の問題に関わって、認知言語学等の知見を取り入れながら、一義的な定義には馴染まない専門性の捉え方についての考察を行う。 また、B(海外の文献の翻訳読解検討)については、ドイツの現象学的教育学研究の中心人物であるK. マイヤー=ドラーウェやW. リピッツらの文献の翻訳検討を行い、そこから教師の専門性に関する知見を得る。 さらに、C(授業研究ならびに聴き取り調査)については、引き続き、長崎県内(諫早市および佐世保市)および北海道内(札幌市および石狩市)の小中学校等を対象に、授業研究を中心とした学校改革や教員研修といった視点からフィールドワークを行う。その際、ビデオ録画された授業の記録化と分析といった手法によって、遠隔地間における検討をより日常化する方略を模索し、事例研究の素材を収集する。 これらの知見を集約し、冊子体の報告書を作成する。
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