20世紀中盤のオランダにおいて現象学的教育学の研究の中心人物であるマルティヌス・ヤン・ランゲフェルドの研究をドイツに紹介したのは、ヘルムート・ダンナーである。ダンナーは、現象学と解釈学と弁証法を基盤とする教育学研究の構想を立てている。オランダ出身のカナダの教育学者マックス・ヴァン=マーネンは、これらを発展させ、現象学や解釈学の基盤の上に「思慮深い」教育者を養成するための質的研究方法論を提唱している。その際、ヴァン=マーネンは、ドイツの教育学者ヨハン・フリードリヒ・ヘルバルトによって19世紀初頭に提唱された理論と実践の媒介項としての教育的タクトを思慮深さを表現するものとして高く評価している。一方、心理学者である鯨岡峻は、エトムント・フッサールが提唱した間主観性の概念を相互理解の仕方として保育および教育研究において深め、「関与観察」に基づく「エピソード記述」という研究方法論を提唱した。これは、教育者の心を揺さぶられる体験をエピソードとして記述した上で、これにメタ考察を加え、事例研究として提示する方法である。 このような学的展開史を整理したことによって、小中学校等での校内研修においても、思慮深い教師を養成するために現象学的な記述と解釈学的な省察や弁証法的な思考が求められることとなる。つまり、本研究を通して、自然科学の研究方法論を模倣した仮説検証型のこれまでの教員研修の研究方法論から、授業場面の学習者の認識や関係性のつながりを固有名詞で捉えて報告されたエピソードとその省察とを共有する場にしていくという校内研修の研究方法論への転換の必要性を提起した。これらの校内研修の在り方を実地に探るべく、長崎県および北海道の小中学校へのフィールドワークを行いつつ、実践的な知見とエピソードを収集し、関連して、「学習形態の交互転換」に関する視点や「つながりの理論」に関する視点についても検討を行った。
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