技術者が、工学教育機関設立以前に自生的に形成され、実地訓練による技術者養成の伝統があったイギリスの場合、初期において、工学教育機関の発展が制約された。その制約要因の一つに、優秀なアカデミック技術者(工学教員)の確保と再生産の困難の課題があるのではないかという仮説の下に、イギリス工学教育機関の発展を、アカデミック技術者問題に焦点を当てて検討した。その際、スコットランドの大学のサンドイッチ制が果たした役割に注目した。対象としたのは、スコットランドのグラスゴー大学とエディンバラ大学、ロンドンのユニヴァーシティ・カレッジとキングズ・カレッジ、ケンブリッジ大学とマンチェスター大学の6大学・カレッジで、工学教育導入以降、第2次世界大戦頃までの工学教員(教授と講師等のスタッフ)223人の教育・訓練などの経歴研究を行った。 明らかになったことは、(1)アカデミック技術者にも実地訓練が求められていたこと、(2)実地技術者と2足のわらじを履くことが一般的であったこと、(3)サンドイッチ制を利用して教授の下で仕事をさせながら養成する事例があったこと、(4)工学教育機関設立の初期に最初に教員に採用されたのは実地技術者や発明家などだが、すぐ辞めてしまうなどから、理論的教育のできる科学者が採用される事例も見られ、やがて、実地技術者で理論的教育と工学研究ができるアカデミック技術者が登場するようになったこと、(5)スタッフには、主に学生教育・訓練要員として採用された者と、合わせて研究に従事し、上級学位を取得して上級ポストを目指した者がいること、(6)大学により、上級学位取得状況が異なり、マンチェスター大学オーエンズ・カレッジでは、学士取得後に研究を積ませ、上級学位を取得させるアカデミック技術者養成システムが徹底していたが、ケンブリッジ大学では、上級学位を取得するものがほとんどいなかったことなどである。
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