研究課題/領域番号 |
24530952
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
松下 晴彦 名古屋大学, 教育学研究科(研究院), 教授 (10199789)
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キーワード | ジョン・デューイ / アメリカ合衆国 / ヘーゲル / プラグマティズム |
研究概要 |
平成25年度の研究は、本研究課題の中心であるジョン・デューイによる未公開のセミナーと講義ノートの収集と分析であった。デューイの思想的展開に関する通説によれば、ミシガン大学からシカゴ大学にデューイが移った前後に、ヘーゲル主義的な観念論から離脱し、プラグマティズムに特徴的な実験主義期に移行したということになっているが、本研究における仮説は、デューイのなかでその種の劇的な離脱や移行はなく、20世紀の初頭にいたるまでの10年間の間にその哲学的方法とスタンスをめぐる省察が徐々になされたとのではないかというものである。 この仮説の検証のために、本研究では、ミシガン大学時代とシカゴ大学時代を中心とするデューイのセミナーと講義ノートを収集・分析し、公表された著作や諸論文ではみることのできないデューイの思索のプロセス、特にヘーゲルとヘーゲル主義に関する彼の解釈と再解釈のプロセスの探究を目的とした。 より具体的には南イリノイ大学カーボンデール校にあるモリス・ライブラリーを調査先として、ジョン・デューイ・スペシャル・コレクション所蔵の資料より、シカゴ大学時代の演習(ヘーゲルの精神現象学)を入手した。デューイの講義ノートおよび受講生による速記録から、少なくとも20世紀初頭の転換期にいたるまで、デューイは、ヘーゲル哲学について講義を続けており(ヘーゲル哲学に関心を抱き続け)、かつヘーゲル哲学自体とイギリスその他の新ヘーゲル主義とをデューイが峻別していたことが資料の分析より判明した。 引き続き、南イリノイ大学カーボンデール校への調査、また隣接するデューイ研究センターでの資料の閲覧と収集、さらにミシガン大学のベントレー歴史図書館でのミシガン大学時代のデューイ関係の史資料の収集につとめ、初期デューイの思想形成の転換にまつわる詳細の分析と究明にとつめたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
24年度は主として公刊されている研究資料の収集と分析につとめたが、25年度は南イリノイ大学カーボンデール校への調査の結果、本研究課題の中心となるデューイの演習の実際をつたえる資料を入手することができた。他方、依然、デューイの倫理学講義などの講義ノートの存在も知られており、これらのさらなる収集と分析は今後の課題である。また南イリノイ大学に保存の資料は、ファイルによって整理されているがいわゆる史資料としては第一次資料であり、多くは手書きのものである。これらの解読とタイプ原稿への整理はデューイ研究センターの研究員によって遂行されている。今後はデューイ研究センターとの緊密な研究協力関係も築いていきたい。収集した史資料については早急に分析を遂行したい。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度は、本研究の最終年度であるが、引き続き最重要課題であるヘーゲルに関するデューイの解釈と見地に関わる史資料、およびデューイの研究論文の収集と分析につとめる。また研究成果として、本研究の仮説である初期デューイ思想の転換におけるヘーゲル哲学、特に精神現象学の位置づけに関する研究成果の発表を予定している(第58回日本デューイ学会研究大会における個人研究発表、アメリカ教育哲学会における個人研究発表、アメリカ教育学会における課題研究発表など)。特に、26年度秋に開催のアメリカ教育学会では大会校を引き受け、本研究の中心テーマをベースとした課題研究の場を設ける予定である。また、本研究による付随的な研究成果、研究資料として、デューイ研究では現代の古典ともいえる、リチャード・バーンスタインの名著『ジョン・デューイ』の翻訳作業を遂行中であり、できれば26年度中に出版をしたいと考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
前年度の計画における旅費について、諸般の事情から滞在期間を縮小したため、平成26年度への若干の繰り越しが生じている。本研究課題の最終年度にあたり、引き続き、主なアメリカ、イギリスを中心とする学術雑誌の入手、文献の収集とそれらの分析につとめる予定である。また本研究の暫定的な総括の最終年度として、本研究の中心テーマである、アメリカにおけるヘーゲル主義の受容とデューイ自身の解釈との比較検討とデューイ講義ノートの分析について成果発表を行う。 前年度のからの継続的な研究成果について、国内の学会での個人研究発表、日本カリキュラム学会(関西大学)、日本デューイ学会研究大会(同志社大学)、アメリカ教育学会(名古屋大学)での成果発表のための旅費ほかを計上している。また引き続き、19世紀のヘーゲル研究、進化論的生物学に関する当時の研究雑誌、およびそれらの復刻版の検索と購入を計上している。さらに本研究の中心的テーマである、アメリカのミシガン大学、ベントレー・ヒストリカル・ライブラリーへの訪問、南イリノイ大学ジョン・デューイ研究センター、コロンビア大学ティーチャーズ・カレッジ附属図書館への資料収集のための旅費を計上している。
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