研究課題/領域番号 |
24530957
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
尾島 卓 岡山大学, 教育学研究科(研究院), 准教授 (50293270)
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キーワード | 授業研究 / 言語活動の活性化 / 教科内容構成 |
研究概要 |
前年度に収集した授業研究関連データをもとに、授業時間内の教師と子どもの発話を時間軸に即して配置した授業プロトコールと教科単元および学習履歴を子ども毎に集積した学習ノートのデータベースを作成した。次に、プロトコールとデータベースを用いて、学級集団全体が単元学習中に用いることばの変化(主観的印象)と単元目標および各授業時間における学習目標達成の度合い(客観的成果)を関連づけ、授業における言語活動の分析指標を確定した。さらに、データ収集の前後に授業者である担任教師に行ったインタビューをもとに、観察児童を学習をリードするリーダー(A群)および学習に困り感のある子ども(B群)、授業改善に伴い活躍が期待できる子ども(C群)の3群にわけたマップを作成した。 上述した3群のうちC群の子どもたちの言語活動のうち授業プロトコールにおいて把握されるものは、A群の子どもたちにリードされて活性化されることが判明した。また、C群に属する子どものデータベースを比較検討することで、彼らの学習においては、生活経験と学習内容の比較や既習経験を用いた未収事項の学習などの言語活動が活性化していることが明確になった。これらの傾向は、異学年・異教科で収集した授業データからも導きだされ、これまで学校における実践的研究として授業改善の中核を担ってきた方法論である授業研究において現場教師が印象として漠然として把握してきた成果を、量的データと質的データの両側面から実証する結果となった。 このような授業分析からは、子どもの言語活動を活性化する際に原則となる授業構想の要因についても明らかになった。教科書に記載された内容を授業において合意・確認された内容を加えて再構成しなおす教科内容構成のプロセスに子どもが参加することは、子どもの言語活動を活性化する可能性をもつのである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
これまでに収集されたデータは、二つの学年及び二つの教科によって実施された授業であった。このデータから上述したプロトコールとデータベース作成を行ったわけであるが、事前の計画立案の際には予想できなかった二つの原因から授業内言語を可視化・固定化する作業には時間がかかった。 一つ目の要因はデータ数の多さと多様さである。とりわけ、学習履歴を子ども毎に集積するデータベースの作成の際に不可避な作業である子どものノートのコピーとそれらの読み取りでは、文字の濃度差や記述箇所の違いから予想以上に作業は困難なものになった。二つ目の要因は、授業プロトコールの作成にあたった作業協力者の力量である。教科内容に関する理解が十分出ない協力者にとっては、授業内の言語活動を聞き取り文字化する作業は困難なものであり、研究代表者が行うよりも時間がかかったためである。 また、平成25年度の研究では、前年度の分析から抽出された子どもの言語活動を活性化させる授業研究モデルをさらに多くの教師に提示し、他の教科・学年において更に多くの授業データを収集する計画を構想していた。観察授業の提供を依頼する現場教師は、したがって研究代表者が以前より関与している岡山市教育委員会及び岡山市教育研究センターの主催する研修事業に参加した方々をあてにしていたのだが、いくつかの要因から目論見通りには計画を進めることができなかった。 そもそも、上述した事業に参加する教師は、10年以上の教職キャリアを有し学校内でもミドルリーダーとして校務や研究の中核に位置する方々である。観察授業の公開を予定した教師たちは、学校行事が多く小学校においても多忙な最高学年の学級担任や個別のニーズへのきめ細やかな対応を求められる特別支援学級を担当していたため、依頼を躊躇せざるをえなかった。 上述した二つの遅れにより現在までの達成度を上記区分のように自己評価した次第である。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画では、平成26年度には教職キャリアの比較的短い教師の実施する授業をフィールドとして授業研究枠組みを検討する予定であったが、仮説検証のフィールを変更する必要がある。教科構成への子どもの参加を視点として観察授業を公開できる教員を上述の事業に参加した方々から募り、データの収集と整理を着実に進めるよう検討している。
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次年度の研究費の使用計画 |
授業観察を行わなかったため、授業プロトコール及び学習履歴データベースの作成を行わなかった。そのため、音声データの文字化及び紙媒体の電子化に関わる実務作業を行う補助者の雇い上げがなく、計画当初に計上していた経費を使用しなかった。このような研究の遅れに加え、授業における言語活動の分析と密接な関連がある「学力・学習状況調査」(文部科学省、国立教育政策研究所共同実施)において保護者や教育委員会の実態と児童・生徒の学力の相互連関を分析する新たな調査が本年度より始まり、その動向を注視するために、中間報告書の作成を中断しているために予算の執行が計画と異なっている。 授業プロトコールと授業データベースの作成を継続して行う。また、平成24年度に授業公開を依頼した教師に研究成果を還元するために、年度内に成果の中間まとめを作成する。
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