本研究の目的である学校種や教科間の壁を越える授業研究のフィールドとして、主要には「小中連携型の学力向上」に取り組んで来た学校での授業研究協議会のリフレクションや教職員へのアンケート調査に取り組むことで、どのような教授学キーワードが語られ、またそれらはどのように相互に関連しているのかについて検討してきた。その結果、一つの授業を構想したり分析する際に、小学校は児童生徒の動きのあり方に主要な関心があり、中学校は教科内容の構造や教材の構成に主要な関心があるという傾向が明らかになった。しかし、そのことは、小学校が教材研究を軽視しているとか、中学校が児童生徒の活動に無関心であるということではない。むしろ、「小中連携」に取り組むなかで、それぞれの関心がクロスすることで、教授学キーワードが共有されてくる側面が認められた。 また、ドイツの教授学研究者との授業研究についての交流のなかで、ドイツの授業研究が、教育のスタンダード化のなかにあっても、能力の形成だけでなくて、教科内容の理解を深める過程における人格形成的な論議に注意を払っていることが明らかになった。その点については、日本の授業研究のフィールドでは、これまで教科指導と生徒指導を区別して分析してきたが、小中の学校の壁を超えているのは、むしろ地域的課題への対応や「生徒指導の3機能」の重視という施策のもとで、教科指導と生徒指導の相互関連がすすむなかで、学力向上としての「学び」の問題が、人格形成としての児童生徒の「育ち」の問題へと拡張されていく可能性を提起している。 さらに、開発的な研究として、教授学キーワードをふまえた授業研究のためのツールとして、「授業の記録と分析のためのフィールドノート」と「授業研究協議会のためのワークシート」を開発試案として作成し、今後それらの検証と修正を重ねていく予定である。
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