1930年代後半における綴方関係の雑誌論文や単行本の収集、リストアップを継続しておこなった。さらに、動向をとらえていくうえで、今年度は、とりわけ個々の綴方の評価の観点のありように着目し、選評の分析に着手した。千葉春雄主宰の雑誌『綴り方倶楽部』、鈴木三重吉主宰の雑誌『赤い鳥』、小砂丘忠義編集の雑誌『綴方読本』の3誌に掲載された綴方作品を比較対照すると、3誌のうち、二つの雑誌に同一作品が掲載され、評も付されている場合があるものが、少なくとも3通り確認された。これは、雑誌の編集の側が学級文集等から採録したものなのか、「二重投稿」したことによるものかは不明であるが、結果としてはほぼ同時期に複数の雑誌に綴り方が掲載されて、むそこに評も付されている場合があるものが見いだされるということである。もちろん、限られた事例であり、同一の綴方への評の異同でもって一般化を急ぐことは無理であるが、雑誌における特徴はおおよそは把握できるのではないかという見通しをもって作業をすすめてきた。 また、小砂丘忠義のの評文の観点については、その綴方論の推移との関わりで検討して、その一端を、二つの文章としてまとめた。 なお、研究代表者の論文「綴方の評文の誤認問題-中内敏夫『綴ると解くの弁証法』批判」(『土佐綴方茶話』17号、2012年)に関して、中内は『綴ると解くの弁証法〔増補改訂版〕』(渓水社、2013年)において「たしかに誤認であるだけでなく、小砂丘の評文を特色ずける『優等生』批判の立場もよくでてないので適切でない。今回再版を出すにあたり、この点も考えて太郎良のていねいな『批判』にしたがう」として、研究代表者の批判の一部に応えている。
|