研究課題/領域番号 |
24530979
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 西九州大学 |
研究代表者 |
香川 せつ子 西九州大学, 公私立大学の部局等, 教授 (00185711)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 女性 / 教育史 / ジェンダー / イギリス / 大学史 / 科学史 / 女子教育 |
研究概要 |
19世紀末から20世紀初頭の女性の科学者に関する研究は、日本ではほとんどなされていないが、英米では1970年代の女性学の隆盛を背景にかなりの先行研究が公刊されており、自然科学という学問に内在するジェンダー・バイアスや、女性の進出の進捗とそれへの障壁やキャリア形成上の困難などが明らかにされてきた。そこで、研究開始年度にあたる本年度は、次のような作業を進めた。 (1)英米における女性の自然科学における貢献に関する図書や学術論文を収集し、テーマおよび内容ごとに整理して資料化した。 (2)DNB(英国国民伝記事典)から女性科学者を抽出し分野別に整理した。また個別の著名な女性科学者に関する伝記や研究書を収集した、 (3)ケンブリッジ大学図書館にて、女性に優等卒業試験受験が許可された1881年から19世紀末までの合格者名簿に関する資料を閲覧し、自然科学トライポス合格者数の推移を、古典学、数学トライポスと比較して時系列な変化を把握した。 (4)抽出した自然科学トライポス合格者の氏名を、ケンブリッジの二つの女子カレッジの卒業生名簿と照合し、彼女らの出自、出身校、卒後のキャリアなどに関するプロソポグラフィ作成を進めている。 以上の作業から、本年度はケンブリッジ大学に的を絞り、同大学の教育改革への取組の過程で創設された自然科学トライポスのねらいと内容、女子カレッジの設立初期の自然科学専攻女子学生の動向を論文としてまとめた(「ケンブリッジ大学における科学教育と女性ー1880年代から1910年代までの自然科学トライポスを中心にー」『西九州大学子ども学部紀要第4号2013年3月)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究の基礎となる資料については、女性と自然科学の歴史に関する基本文献をほぼ収集することができた。背景を知る上で必要な科学史や大学史に関する資料の収集も順調に進んでいる。この分野に関する英米の未公刊学位論文の数は限られており、現在購入の手続きをしている。 平成24年9月にケンブリッジ大学での現地調査を計画に沿って実施したが、ニューナム・カレッジのアーカイブ資料を閲覧するには至らなかった。そのために、自然科学トライポス合格者の量的な動向を把握することはできたものの、女性の自然科学専攻をめぐる内部的論議についての調査はいまだ不十分である。 当該時期における女性の自然科学専攻学生および自然科学者のプロソポグラフィ作成の作業は、DNBやガートン、ニューナムの卒業生名簿等を手掛かりに、主要人物の生涯と業績を把握できた。そのうち、自然科学トライポスの合格者については、先行研究に新たな知見を付け加えて、論文「ケンブリッジ大学における自然科学と女性ー1880年代から1920年代までの自然科学トライポスを中心としてー」としてまとめ公表した。以上のことから、本研究の進捗具合を自己評価すると、研究計画通りいかない部分が残されてはいるが、全体としては順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度以降も、本研究の目的に沿って先行研究や資料を収集し、データ化する。イギリスでの現地調査については、ケンブリッジ大学、ニューナムカレッジのアーカイブ資料を閲覧するとともに、ロンドン大学のユニヴァーシティ・カレッジ、ロイヤル・ホロウェイ・カレッジにも範囲を広げて関連資料を収集したい。 また平成24年度は自然科学を専攻してトライポスに合格した女子学生に関する考察が中心だったので、平成25年度以降は女性の自然科学者に焦点を移し、卒業後のアカデミック・プロフェッションとしてのキャリア形成を明らかにするとともに、彼女らの成功要因、阻害要因について考察を進めたい。具体的には、自然科学トライポス合格後に研究者への道を進んだ女性たちを三つの世代に分類し、それぞれのキャリアや業績を検証するとともに、ケンブリッジ大学の「自然科学コミュニティ」と呼ばれる男性研究者集団の女性受け入れと拒絶の錯綜した力学関係、女性自然研究者が形成した対抗文化などを、生物学、物理学、化学、生化学、衛生学等の講座や研究所での実態に即して実証的に明らかにしたい。 また、本研究は「イギリス女性高等教育の社会史」という大きな枠組みの一環をなすものであり、獲得した研究成果をこの枠組みの中に位置づけなおす作業も進めたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
本分野に関する国内での先行研究がほとんど存在しないことから、平成25年度も関連資料の収集とデータ化を進め、その分析と整理を行う。「物品費」は、科学史関係の和洋図書、女性の自然科学研究に関する英文図書の購入にあてる予定である。 平成25年度は、本年度にケンブリッジ大学で入手できなかったアーカイブズ関係の内部文書や記録の閲覧と、ロンドン大学でのリサーチを実施するために、二週間程度の現地調査を計画している。「旅費」は、イギリスへの渡航費用と国内大学図書館での文献調査、および学会発表や学会参加のために使用する。 「人件費・謝金」は、研究上の助言や情報提供者に対して支払い、「その他」は、英米の未公刊博士論文や雑誌論文等の複写費、製本費、文具費等にあてる計画である。
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