研究課題/領域番号 |
24530979
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研究機関 | 西九州大学 |
研究代表者 |
香川 せつ子 西九州大学, 公私立大学の部局等, 教授 (00185711)
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キーワード | 女性 / 教育史 / 自然科学 / イギリス / 高等教育史 / ジェンダー / 女性科学者 / 女性医師 |
研究概要 |
本研究は、イギリスにおける女性の高等教育史の一環として、19世紀末から20世紀初頭にかけて自然科学系分野の教育研究に挑戦した女性の足跡とそれへの男性学者や大学人、専門職業人の対応を検討することにより、科学と学問におけるジェンダー構造の変化を考察することを目的とする。平成24年度は、ケンブリッジ大学で自然科学を専攻した女子学生群に焦点をあて、現地での資料調査を通して自然科学トライポス(優等卒業試験)合格者の属性や進路の動向を明らかにした。 平成25年度は、大学卒業後も大学の内外で自然科学の研究・教育に携わった女性のキャリアを解明することで、学問研究や科学教育実践等への女性の貢献とそれをならしめた要因や障壁を明らかにしたいと考えた。そのために、二つの方向での研究を実施した。第1は女性科学者を輩出したケンブリッジ大学ニューナム・カレッジにおけるアーカイブズ資料の調査であり、第2は、医学の分野で業績を挙げた女性たちの自伝や女子医学校関係資料の収集と整理である。 第1の女性科学者に関しては、1880年代から1910年代までに自然科学トライポスに合格して生物学、衛生学、生理学等の分野で顕著な業績を挙げた女性たちを三つの世代に区分して、教育歴や研究業績、大学や学術協会における地位の変化について考察した。 第2の女性医師に関しては、1850年代から1910年代までに公刊された文献資料を集成して復刻出版した。その序文と別冊付録で、女性医師パイオニアの生涯と業績、思想と活動、英米の女子医学教育の創始と変遷、女性医師の医療活動や処遇等を概説し、収録した資料の解題を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、ケンブリッジ大学ニューナム・カレッジ、アーカイブズでの調査を実施し、同大学における女性の自然科学分野における研究教育活動の拠点となったバルフォア研究所(1884-1914)に関する原資料を閲覧することができた。またニューナム・カレッジ卒業生名簿から、1880年‐1910年の期間の教育研究スタッフおよび在学生の専攻分野を抽出し、自然科学を専攻した女子学生の履歴を整理した。この作業は進行半ばであり、成果をまとめて公表するには至っていない。 また、医学教育に関しては、エリザベス・ブラックウェル、エリザベス・ガレット・アンダースン、ソファイア・ジェックス=ブレイクという三人の女性医師パイオニアの自伝や英米の女子医学校に関する資料から、女性の医学分野への進出とそれをめぐる男性医師や既存医学界の反発と拒絶、進歩的男性医師との協力関係や支援ネットワークの存在などを明確にすることができた。その成果を、「女性と医学教育:19~20世紀初頭英国文献集成」および「別冊日本語解説」として公刊している。 以上のことから、平成24年度から25年度までの研究上の課題はおおむね順調に達成していると自己評価する。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度は本研究課題の最終年度にあたり、これまでの基礎的作業を集約して、学会発表や論文として公表するとともに、より大きな研究枠組みである「イギリス女性高等教育史」の視点からとらえなおして整理し、研究全体のなかに位置づける。 そのために、女性の自然科学者が大学の内外で独立した研究活動を認められ、アカデミックな専門職業人としての地位を獲得していった過程を個々の事例に即して検討し、成功要因と阻害要因とを析出する。一口に自然科学系分野といっても、女性の進出の状況は学問領域によってさまざまであり、生物学、植物学、衛生学、医学等を比較的多くの女性が専攻する一方で、数学、物理学等女性が参入しにくい領域も存在した。また女性たちが自然科学に関心を抱いた契機や、研究継続の方法も多様である。 今後はこれらの差異と共通性を丁寧に吟味することにより、自然科学研究の場が民間団体から大学へと移行した時期における女性の自然科学分野進出の意味と歴史的意義について明らかにしていきたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成26年3月8日~3月16日にイギリスでの文献調査を実施した。帰国が年度末であったため、旅費や資料費等の支出が次年度に持ち越された。また、本年度に購入を予定していた文献の刊行が遅れた。 本年度に発生した未使用額の大半は、平成26年3月8日~16日にイギリスで実施した文献調査にかかる旅費や資料費の支出にあてる。 平成26年度は、平成25年度までに収集できていない重要文献、新たに刊行された図書等を購入するとともに、パソコン関連機器の購入も計画している(「物品費」)。国内・国外の学会参加と文献調査を実施する(「旅費」)。平成26年度は本研究課題の最終年度であるため、研究成果をまとめて公表する予定である(「その他」)。
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